岩手県大槌町に、電話線に繋がらないダイヤル式の黒電話が置かれる「風の電話」というものがある。その「風の電話」がなぜ設置され、いまも人々が訪れるのかについて、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が綴る。
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風の便り、風のうわさという言葉があるが、「風の電話」とはよく名付けたものだ。この電話は電話線につながっていない。だが、人から人へ、記憶から記憶へ、言葉から言葉へ、そして、この世からあの世へと、目には見えない風を介して、たしかにつながっている。
岩手県大槌町にある鯨山の麓に、ポツンと据えられている「風の電話」。これを佐々木格さん(73歳)が設置したのは、幼いころから慕っていた従兄を、がんで亡くしたことがきっかけだった。逝った人と遺された人がつながる場をつくりたい、と考えた。
そんな矢先、東日本大震災が起こった。大槌町でも大きな被害に見舞われた。死者行方不明者1285人のうち400人以上の方が今も行方不明のままだ。
震災の翌月に完成した「風の電話」は、急速に知られるようになった。突然の別れを強いられた人たちが心の中の相手と対話するために、全国から訪ねてくる。その数は3万人を超えるという。
電話ボックスに備えられたノートには、たくさんの人の思いが綴られている。