失禁、食べこぼしのほか、高齢者には不快なにおいの原因がいろいろあり、ただでさえ心労が重なりがちな心に拍車をかける。介護は不快臭との闘いでもあるのだ。においとストレスの関連について多数の研究がある精神神経科医の古賀良彦さんに、不快臭との向き合い方を聞いた。
「不快臭や自分が嫌いなにおいをかぐと、運動や脳機能のパフォーマンスが明らかに落ちることがわかっています」
古賀さんはそう言う。
たばこ嫌いの人がたばこのにおいの中にいる実験で、30分後には脳のリラックス状態を示すα波がほとんど消滅。また衣類などについた自分や他人の汗のにおいが、体の柔軟性や持久力を低減させるという実験結果もあるという。
「不快なにおいをかぐと、脳が穏やかでいられなくなり、本来の力をスムーズに発揮できません。意識しないうちにストレスがたまり、日常の行動や運動能力が制限されるほどの影響を与えます。場合によっては、うつ状態に陥ることもあります」
家族介護の場では、身内だからこそ状況は複雑。不快と思うことにまで罪悪感を覚えて深く傷つく人もいると、介護職の人からも聞く。
「嗅覚は、非常に原始的な感覚です。微妙な色彩や音など繊細な感覚でとらえる視覚や聴覚とは違い、好きか嫌いか一瞬で判断されます。なぜなら嗅覚は本来、敵か味方かを見分ける、食べても害がないかを判断するなど、生きるために必要な情報を得るための感覚だから。不快な悪臭は特に、強烈なインパクトを持って感じるわけです。
かぎ分けた快不快の感情は、理屈ではどうにもならない。抗いようがないのです。介護現場での排泄物のにおいは誰にとっても不快。これを“自分を育てた大切な親のことだから”“不快と思ったら悪いから”などと、理性で抑えようとしても無理なこと。そう考えれば考えるほどストレスはたまっていくのです。まずはこの現実を、よく理解することが大切です」
◆ストレスは排除せずに“上手につきあう”が正解
不快臭に“心の持ちよう”は通用しない。正攻法で解決するのが得策だ。
「介護現場での不快臭は、悪臭と割り切って、汚れを洗ったり物を捨てたりして、できるだけ断つこと。またマスクをして防御をするなどで不快臭を避ければ、その分だけストレスは軽減できます」
それでも、ストレスを一掃することは難しい。