動脈硬化は全身のどこにでも起こる可能性はあるが、特に心臓に栄養を運ぶ冠動脈や大動脈、脳動脈に起こりやすい。したがって血栓が原因となる血栓症の中でも脳梗塞、心筋梗塞が多いという。
菅原脳神経外科クリニック 院長・菅原道仁さんはこう語る。
「現在、日本人の死因1位のがんに続き、2位が心疾患、3位が脳血管疾患です。ここからもわかるように、心臓や脳の血管が詰まることは命取りになります。また脳梗塞の場合は、後遺症も残りやすい。体の片側だけが動きにくくなる片麻痺や半身麻痺、運動機能の低下、感覚障害、視覚障害、嚥下障害、言語障害、認知障害など、生活に支障をきたすものが多く、寝たきりになるリスクもあります」
血栓が原因の病気にはほかに、エコノミークラス症候群の呼称で知られる肺血栓塞栓症もある。
足の静脈にできた血栓がはがれ、血流にのって肺動脈を詰まらせて起きる。強い胸痛が特徴で、やはり命にかかわるリスクのある病気だ。
飛行機や乗用車などで長時間、同じ姿勢でいて、急に立ち上がったときになどに起こりやすいので、秋の旅行シーズンには注意したい。
「起こってしまうと深刻な状況に陥る心筋梗塞や脳梗塞ですが、今はよい治療法が確立されており、早い段階で治療すれば完治できる可能性もあります。早ければ早いほどできる治療がある。つまり一刻も早く症状に気づき、受診につなげることが大切なのです」と言う菅原さん。
ただ、暑さがまだ残る今の季節、同じ脱水が原因の熱中症の症状と混同され、“水分を摂らせて様子を見てみよう”などというタイムロスが懸念されるという。熱中症との違い、脳梗塞・心筋梗塞の見極め方を聞いた。
「熱中症の場合は体温が高くなるのが特徴的。意識がはっきりしているなら、水分補給をして涼しいところで休ませると回復します。
脳梗塞は麻痺が現れます。右脳にダメージがあれば体の左側に、左脳にダメージがあれば右側に麻痺が出ます。特に気づきやすいサインとしてアメリカ脳卒中協会が提案している『FAST』を覚えておくとよいでしょう。
顔(Face)の片側が落ちるようにゆがむ。腕(Arm)の片方に力が入らない。言葉(Speech)が出て来なかったり、ろれつが回らなかったりする。これらのうち1つでも当てはまれば、救急車を呼ぶなど、一刻も早い(Time)治療が大切ということです。
また、心筋梗塞の場合は、突然の激痛に襲われます。いちばん多いのはやはり、胸の痛み。脂汗が出るほどの締め付けられるような圧迫感といわれます。腕や肩の痛み、歯やあごの痛み、胸やけや吐き気といった症状として感じられることもあります」
ただし、熱中症と脳梗塞・心筋梗塞が同時に起きることもあるという。脱水、動脈硬化ともなりやすい高齢者は、いつでもリスクがあると心得て、見極めに迷うようなら救急車を呼ぶべきと、菅原さんは断言する。
※女性セブン2018年9月13日号