毎年夏休みに、総勢21名の子供たちが30泊31日のキャンプを行う「夏のガキ大将の森キャンプ」。野営、自炊がメインで34万円という費用にもかかわらず、例年キャンセル待ち続出で、4人きょうだい全員を順番に参加させるケースも。1日1万円以上払ってでも、子供のキャンプ参加を親たちに踏み切らせるものは何か。21名のガキ大将予備軍を追った。
栃木県芳賀郡茂木町にある「ツインリンクもてぎ」。その一画に、森の自然体験プログラム各種を主宰する「ハローウッズ」がある。
7月26日、ここに小学4年生から中学1年生の男女計21名が大きなリュックを背負って集まった。夏休み恒例、30泊31日の「夏のガキ大将の森キャンプ」の参加者だ。
「今日から1か月間、みなさんは親と離れ、自分のことは自分で考えて行動します。ひとりで出来ないことは、仲間と一緒に考え、協力して乗り切っていきます」
緊張した面持ちの子供たちを前に、ハローウッズのプロデューサーであり、30泊31日のキャンプを率いる“ガキ大将”こと崎野隆一郎さん(61才)が、よく通る声で語りかける。
「テントの張り方、ロープの結び方、ナイフの使い方、火のおこし方、ご飯の炊き方…。キャンプに必要なことは、前もって全部ちゃんと教えます。でも、ぼくらは現場では一切、手助けはしません」
この日から1か月間、このハローウッズの森が、子供たちのホーム(拠点)となる。
まずは持ち物の収納と整理が始まった。見送りにきた父母たちも何人かいる。しばらくは心配そうにじっとわが子を見守るにとどまっていたが、収納どころか散らかっていく様を見て「ほら、早くしないと」と、たまらずに駆け寄る。
親たちが帰り、荷物の片付けが一段落した頃、「くしゅ、くしゅ」と鼻水をすする音が聞こえてきた。2人の男子がそれぞれ、収納カゴの前で必死に嗚咽を堪えている。
男子の1人が意を決して崎野さんに近づいた。うつむき加減に何かをつぶやく。
「なんだって? 東京に帰りたい? 今日来たばかりじゃないか、バカヤロウ。ほら、早く仲間と寝床を作ってこい」
この男子にとって、これが生涯初の“バカヤロウ”だったのかもしれない。ポカンとする男子の頭を崎野さんはグリッとなで、みんながテントを設営している森のデッキへと、その背中を押し出した。そして、もう1人の男子に近づき、こう言った。
「好きなだけ泣いていいぞ。でも、涙は今日のうちに出し切れよ」