音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、注目の二ツ目、柳亭小痴楽、桂宮治、三遊亭わん丈による「50年後の名人会」についてお届けする。
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7月27日、深川江戸資料館で柳亭小痴楽、桂宮治、三遊亭わん丈と、僕の好きな二ツ目3人が出る会を観てきた。「50年後の名人会」なるタイトルで、BS12の収録用らしい。
トップバッターのわん丈は『お見立て』。この噺、杢兵衛お大尽のとんでもない田舎者っぷりの可笑しさで引っ張っていく演者が多いけれども、わん丈はそっちよりも喜瀬川花魁と若い衆の喜助のやり取りをメインに据えている感があり、そこがとても面白く出来ている。
特筆すべきは喜瀬川花魁の「計算高くてワガママだけど憎めない可愛さのある女」というキャラの魅力。杢兵衛に会いたくないばかりに「恋患いで死んだ」という嘘を喜助に伝授する喜瀬川の独り芝居が実に楽しい。墓参りの件で無駄を省き一気にサゲまで持っていくのもいい。
続いて登場した小痴楽は『佐々木政談』。お奉行ごっこに興じる四郎吉ら子供たち、通りがかった奉行の佐々木信濃守とその家臣、四郎吉の父綱五郎ら長屋の人々と、それぞれの描き方が実に巧みで、高座の上で彼らが「江戸の暮らし」をしているのが見えてくるようだ。お白洲での堂々とした四郎吉の受け答えは嫌味がなく、それに感心する奉行の様子も、実に気持ちいい。