「訪問美容」とは、病気やけが、高齢などで美容院まで行けない人のため、自宅や施設、病院まで美容師が出向いてカット、パーマ、カラーリングなどの施術をしてくれるサービス。昔はいわゆる清潔・衛生を保つことが目的だったが、今、年を取っても多少の不自由があっても、その人が望むヘアスタイルを叶えるためのサービスに変わりつつある。
美容師を志したときから、訪問美容を考えていたというtrip salon un.代表の湯浅一也さんに聞いた。
◆今よりもっと素敵に! 美容がリハビリを後押し
「ご自宅や施設に伺って初めて施術させていただくときは、多少緊張し、警戒されることもあります。でも、鏡の前に座り、素敵に変身していくお客様からは、ムクムクと意欲が湧いてきているのが目に見えてわかります」と言う湯浅さん。
“こんなふうになりたい”“何かやってみよう!”という意欲は、若い世代には生活のあちこちに火種があるものだが、高齢者にとっては意外に難しいという。
「高齢のお客様のところへ伺うとき、ぼくはあえて服やアクセサリーを吟味し、バッチリ決めて行きます。すると必ず見つけてほめてくださいます。“あなたのピアス、素敵。私もつけたいわ”なんて(笑い)。髪が素敵になると自信がでてきて、人にも目が行く。服やアクセサリーを買いに出掛けたくなる。そのためにもっと歩けるよう“リハビリをがんばろう”となるわけです」
実際に、毎月、訪問美容を受けていた高齢女性(当時要介護5)がリハビリを積極的に行うようになり、要介護2にまでなったという。
「脳梗塞の後遺症で麻痺がひどく、最初はお話もままならず、寝たきりでシャンプーするのも大変な状態でした。すっかり意欲をなくされていましたが、髪を洗い、カットしてきれいに整えるとどんどん目の輝きが増すのがわかりました。もちろん、介護度の改善はリハビリやご本人の努力の賜物ですが、その気持ちに火をつけることができたように思います。
今では娘さんに介助されながら、近所の美容院へ行かれるまでになりました。ぼくらの仕事は終わりますが、それが目的なのです」
※女性セブン2018年9月20日号