国内

7本指のピアニスト、座右の銘は「毒は愛をもって制す」

「ポジティブな言葉を口に出すと、幸運が向こうからやってくる」と西川さん

 ニューヨークを中心に世界で活躍するピアニスト・西川悟平(43才)。15才でピアノを始め、音大に合格し、ニューヨークへ。念願かなってピアニストになったが、27才のときに神経の病気である「ジストニア」が発症。左手は親指と人差指でしか演奏できなくなってしまったのだ。

 病気による挫折を味わうも、再び奮起して、ピアニストとして復活を果たす西川だったが、また悲劇が襲う。

 誰よりも彼を心配し、期待し、案じてきた最愛の母が亡くなったのだ。

「がんでした。53才の若さで亡くなった母の葬式に出られなかったことと、復活した自分の演奏を聴かせられなかったことは今でも心残りです。一生後悔するでしょう。当時は医療費もかさみ、どうしても日本に帰る渡航費を出せなかった」(西川、以下同)

 代わりに日本で葬儀が行われるのと同じ時間にニューヨークの自宅で葬儀を行った。

「母が大好きだったピンクのバラを敷き詰め、弔問客にはあえて黒を着ないようにお願いしました。底抜けに明るくて、華やかなことが大好きだった母にふさわしい見送り方をしたかったんです。

 最期まで母は『ニューヨークで一旗あげて来てね。私の心配はしないで。あなたの成功が私の薬だから』と言っていた。この言葉は、『ニューヨークにいても、テレビや雑誌で見られるように頑張ろう』とぼくを奮い立たせてくれました…でも、間に合わなかった」

「見せたかった」そう涙する西川の復活舞台は、母が亡くなって1年後、2008年の夏。

 イタリアで行われた「アレクサンダー&ブオーノ国際音楽フェスティバル」だった。

「主催者から『7本指で弾くことを絶対に明かすな』ときつく言われました。ぼくは『なんで言ったらあかんねん、意地悪やな』って思っていました。曲はショパンの『ノクターン第13番』。豊かな表現が必要とされる難曲です。果たしてこれを、最後まで弾ききることができるのだろうか、と緊張しましたが、弾き終わったら満場のスタンディングオベーションでした」

 すると主催者が前に出てきて、「実はゴヘイは7本の指で弾いているんです」と明かし、再びスタンディングオベーションが巻き起こる。

「『明かすな』は彼の気遣いだったんです。先に7本指だと伝えると、先入観を持って聴いてしまうからよくない。今日は何も知らない聴衆から、スタンディングオベーションを受けたのだから、もっと自分の演奏に自信を持ちなさい、と励ましてくれました」

「中3から始めてプロのピアニストは不可能」「ニューヨークで活動するのは普通の人は難しい」「7本しか指が動かないのなら諦めろ」

 西川の人生にはこれまでいくつもの“インポッシブル”が降りかかってきた。

関連記事

トピックス

石川県の被災地で「沈金」をご体験された佳子さま(2025年4月、石川県・輪島市。撮影/JMPA)
《インナーの胸元にはフリルで”甘さ”も》佳子さま、色味を抑えたシックなパンツスーツで石川県の被災地で「沈金」をご体験 
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン
隣の新入生とお話しされる場面も(時事通信フォト)
《悠仁さま入学の直前》筑波大学長が日本とブラジルの友好増進を図る宮中晩餐会に招待されていた 「秋篠宮夫妻との会話はあったのか?」の問いに大学側が否定した事情
週刊ポスト
新調した桜色のスーツをお召しになる雅子さま(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
雅子さま、万博開会式に桜色のスーツでご出席 硫黄島日帰り訪問直後の超過密日程でもにこやかな表情、お召し物はこの日に合わせて新調 
女性セブン
NHKの牛田茉友アナウンサー(HPより)
千葉選挙区に続き…NHKから女性記者・アナ流出で上層部困惑 『日曜討論』牛田茉友アナが国民民主から参院選出馬の情報、“首都決戦”の隠し玉に
NEWSポストセブン
被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバム、
「『犯罪に関わっているかもしれない』と警察から電話が…」谷内寛幸容疑者(24)が起こしていた過去の“警察沙汰トラブル”【さいたま市・15歳女子高校生刺殺事件】
NEWSポストセブン
豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
大阪・関西万博が開幕し、来場者でにぎわう会場
《大阪・関西万博“炎上スポット”のリアル》大屋根リング、大行列、未完成パビリオン…来場者が明かした賛&否 3850円えきそばには「写真と違う」と不満も
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市早苗が激白「私ならトランプと……」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市早苗が激白「私ならトランプと……」ほか
週刊ポスト