年間100億円も売れているという「入れ歯安定剤」。少し緩い入れ歯でも、「安定剤」を使えば、ぴったりフィットする。食物が挟まらない、外れない。ただし、デメリットも存在する。
「安定剤」を長期間常用すると、歯槽骨の吸収が促進され、歯肉だけが残った柔らかい土手(顎堤)になってしまう場合があるのだ。こうなると、噛み合わせが狂い、入れ歯を作り直しては合わなくなる、という悪循環に陥る。
「安定剤」の添付文書にも、“長期連用しないでください”と明記されているが、知らずに使っている人が多いのではないか。
岩手医科大の研究では、「安定剤」に細菌が付着して増殖することも確認されている。入れ歯治療の第一人者・深水皓三氏(銀座深水歯科・院長)はこう指摘する。
「しっかり設計された入れ歯なら、安定剤は全く必要ありません。それなのに、安定剤がこれだけ売れているのは、歯医者の腕が未熟な入れ歯が多いということでしょう」
●取材・文/岩澤倫彦(ジャーナリスト・『やってはいけない歯科治療』著者)
※週刊ポスト2018年10月5日号