音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、登場人物のキャラの面白さが際立つ、春風亭百栄による古典と新作についてお届けする。
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8月4日、池袋の東京芸術劇場シアターウエストで「春風亭百栄独演会“古典新作ラララ好奇心”」を観た。まず浴衣姿で登場した百栄が高座で胡坐をかいて語り始めたのは『修学旅行の夜』。男子生徒の修学旅行の夜というシチュエーションを見た目で体現しようという趣向だ。
怪談を披露して皆に称賛された伊藤に嫉妬して「怖い話くらい俺にもできるよ」と対抗心を燃やす青木。だが前置きばかり長くて一向に本編に入らない。怖い話なんて絶対できそうもないのに「できる」と言い張る青木の、万人をイラッとさせるキャラの可笑しさは百栄の真骨頂。途中で登場する教頭先生の存在がオチに結びつく構成も見事で、まさに「コントのような新作落語」だ。
続いて弟子の春風亭だいなもが『浮世根問』を演じるが、実はこれ、次の百栄のネタの仕込み。百栄が演じたのは『つっこみ根問』で、八五郎の台詞は弟子の『浮世根問』そのままだが、ご隠居の返しは全部ノリツッコミ。しかもこのご隠居、やたらと逆上するエキセントリックなキャラで、そこがまた爆笑を呼ぶ。
そのまま続けて『かんしゃく』へ。明治生まれの実業家が書いた新作落語だが、今や古典と言っていい。ガミガミと怒鳴り続ける旦那に耐え切れず家を出た妻、それを諭して旦那の許に戻す両親……。百栄は基本的に原作に忠実に演じ、人情噺のトーンでじっくり聴かせた。