いまやインターネットは人々の生活に欠かせないツールになったが、その反面、ネットを舞台にしたトラブルも後を絶たない。ネットの利便性の背後にある“負の側面”は、どう認識されてきたのか。『言ってはいけない』(新潮新書)、『朝日ぎらい』(朝日新書)などの著書がある作家・橘玲氏と、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)などの著書があるネットニュース編集者の中川淳一郎氏が語り合った。(短期集中連載・第2回)
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中川:橘さんは実名を公表していませんし、過去の経歴もお顔も出してはいませんね。何か意図はあるのですか?
橘:2001年に『マネーロンダリング』という国際金融犯罪小説を出したとき、こういうテーマなら著者は国籍も性別もわからないほうが面白いんじゃないかということで、編集者と「橘玲」というペンネームを考えました。そのあと、「ネットに本名や顔写真を載せてもあんまり良いことはないなあ」と思うようになって、そのままです。
中川:確かに芸能人や政治家のように、とにかく知名度を高めたい人以外にとっては、ネットに情報がダダ漏れになってもあまり得はしないですよね。作家であれば、キチンとした読者についてもらえればそれでいい面はある。
橘:物書きとして、自分の書いた文章をできるだけ多くのひとに読んでもらいたいとは思っていますが、自分の顔を不特定多数のひとに知ってほしいとはぜんぜん思わないですから。顔出しして本が10倍売れるなら考えますが、そんなこともないみたいだし。ところで、中川さんは、『ウェブはバカと暇人のもの』をいつ書かれたんでしたっけ?
中川:2008年末に書き始め、2009年4月に発売されました。
橘:僕はブログを始めたのがちょうどその頃で、中川さんの本を読んで、「ウェブの世界ってこんなことになっているのか」とすごく勉強になりました。ネットとテレビの関係について書いていたじゃないですか。
中川:第3章の『ネットで流行るのは結局「テレビネタ」』ですね。
橘:テレビ業界についてはすごく印象に残っていることがあります。(作家活動を始める前の)編集者時代に「テレビ局のディレクターで面白い若手がいる」と聞いて、何かのネタになるかもと会いに行ったんです。彼は昼のワイドショーを担当していたんですが、名刺交換のあとにいきなり、「私なんかの話を聞いてもしょうがないですよ。しょせん、バカに娯楽を提供しているだけですから」と言われました。