人生100年時代、厳しい状況をどう乗り切るかがさらに問われる。大人力について日々考察を続けるコラムニストの石原壮一郎氏が指摘する。
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人間、生きていれば「まずい状況」に追い込まれたり「まずい気持ち」を抱いたりします。いわんや、おっさんをや。「まずいなあ」と頭を抱えていても仕方ありません。いろんな「まずい」を蹴散らして、しぶとくたくましく生きていきたいところ。
悩み苦しむおっさんにとって、貴重なヒントを与えてくれる商品があります。その名も「まずい棒」。かつて「ぬれ煎餅」で話題を集めた銚子電鉄が、8月3日に販売を開始しました。ひところは収入の7割を担っていた「ぬれ煎餅」ですが、売り上げが減少し、ぬれ煎餅だけでは鉄道事業の維持費が賄えなくなり、経営状況はかなりまずい状況になっています。社内には「電車なのに自転車操業」という声も。起死回生の願いを込めて売りだしたのが、この「まずい棒」です。
はたして、こんなまずそうな名前のお菓子が売れるんでしょうか。ところが、各駅での販売に加えて、9月7日から公式オンラインショップでのネット販売がスタートしたこともあり、2ヵ月弱の販売数はなんと18万本。値段は15本セットで600円(税込)、バラで1本50円(税込)なので、少なめに見積もって720万円の売り上げです。継続して売れ続けたら、まずい経営状況を脱出できるかもしれません。
食べてみましたが、コーンポタージュ味のサクサク食感で、おお、そこそこおいしいではありませんか。小腹がすいたときにはちょうどいい感じです。よく似た形状の定番スナック菓子もありますけど、もしかしたら、あれの新バージョンでしょうか。
「いや、あのお菓子とは、断じていっさい関係ありません。そこを強調しないと、かなりまずいことになります。あくまであのお菓子のリスペクトを前提としたオリジナル商品です」と慌てるのは、考案者で怪談収集家の寺井広樹さん。寺井さんは同電鉄が毎年夏に走らせている「お化け屋敷電車」の企画を2年前から手伝っている縁で、まずい経営状況を打開する策はないかと竹本勝紀社長に相談されていました。
「構想は2年ぐらい前からあったんですが、私も社長も『まずい棒だから、まずい味にしなければいけない』という思い込みにとらわれて、何味がいいかわからず、開発がストップしていたんです。でも、考えてみたら、まずいものをお客さんに買ってもらえるわけがない。おいしくていいんじゃないかと発想を変えて、一気に形になりました」
パッケージのイラストは、ホラー漫画のレジェンドにして鉄道マニアでもある日野日出志先生。目の大きなキャラクターは「まずえもん(魔図衛門)」という名前で、世の人々の「まずい……」という言葉に反応して魔界からやってくるそうです。鉄道マニアとして知られる中川家の礼二さんに似ている気がしますが、それも狙ったんでしょうか。
「いや、まったくの偶然です。ただ、いろんな人に指摘されて、だんだんそう見えてきました。となると、電車のほうは兄の剛さんに似ているような気も……。いつの日か、おふたりで銚子電鉄に乗ってもらえたら嬉しいですね。イベントにお呼びする予算はないので、あくまで何かのついでに自主的に来ていただけたらと」
控え目なのか図々しいのか微妙ですが、実現することをお祈りしております。