臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人やトピックスをピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、消息不明となり、様々な憶測が飛び交っている中国の国民的スター、范冰冰(ファン・ビンビン)を分析。
* * *
中国のトップ女優が姿を消して既に3か月。脱税疑惑で軟禁されているのでは?と報じられていたファン・ビンビンだが、中国メディアが9月23日、中国税務当局が「調査中」であることを認めたと報じた。
ファンといえば、中国の国民的女優でハリウッド映画にも出演、有名ブランドのグローバル・アンバサダーをいくつも務め、バラエティ番組に出演した際は、その顔に19億円の保険がかけられたという美貌の持ち主だ。確かに美人といえば美人だが、ツンとしたきつい感じの美人で、勝ち気がそのまま顔に出ている印象があると思う。親しみやすく柔らかく、どこか可愛い印象を与える日本の人気女優たちとは、ちょっと違う。
違うといえば、収入や資産も日本の芸能人とはケタ違い。総資産は500億円、年収は49億円というから驚きだ。中国の有名人収入ランキングではここ数年連続1位を獲得している、まさに超セレブである。
それだけの大物女優であるにもかかわらず、3月以上行方不明になっても、中国メディアは当初全く騒がなかった。中国外務省の定例会見で、ある記者がファンの失踪について質問したところ、報道官が「それは外交問題についての質問か」と意味あり気な“したり顔”を見せたことから、注目が集まったから。それまで中国では、メディア、中国当局による拘束が疑われたのだ。
事の発端は、元国営放送の司会者、崔永元(ツイ・ヨンユエン)ツイ自身のツイッターにアップした、ファンが納税を免れるための二重契約書とみられる画像による。この告発により、ファンの巨額脱税疑惑が持ち上がった。さらに、新疆ウィグル自治区に設けたペーパーカンパニーに脱税やマネーロンダリングなど、次々に疑惑が噴出。反腐敗運動を進める習近平政権にとって、ファンは格好のターゲットだろう。
そしてとうとう、中国税務当局が彼女の脱税疑惑を調査中と認めた。これだけの資産と収入があるのになぜ?と思うところだが、こういう立場や環境にいるからこそ生じる“心の罠”がある。それは「上流階級バイアス」だ。「自分は特別」という特権意識があり、社会的ステータスが人よりも上だと思うと、人は「自分は何をしてもいい」と思い込みやすくなる。
このバイアスが働くと、例えば韓国で起きた大韓航空のナッツ姫や水かけ姫のように、モラルに欠ける行動を取ってしまうのだ。
ファン・ビンビンに話を戻そう。中国ではこの二重契約は、資産家が高額納税を免れるための常識でもあるらしい。告発者の崔氏は、まだ585人にものぼる映画関係者の脱税疑惑の証拠を握っているという。日本はさておき、有名人だけでなく政治家や官僚の腐敗が度々出てくる中国では、政権が腐敗運動をしなければならないほど上流階級バイアスがはびこっているのだろう。
そんな彼女を待ち受けているのは、「スッピンの刑」だとある番組が報じていた。中国では、過去に女優の劉暁慶(リュウ・シャオチン)が巨額の脱税により服役後、報道陣の前でスッピンで公開謝罪させられたからだ。上流階級バイアスの強い人ほど、この“見せしめ“には屈辱を感じやすいということだ。
ここでふと、疑問が湧いた。見せしめさせる当局やメディアの側にあるのは真の正義だけ? もしかして、心のどこかに上流階級バイアスを感じていたりして…。