認知症の人が妄想や同じ話を繰り返すことは、よく知られている事実だ。そしてそれを否定するのがNGということも。簡単なことに思えるが、これが家族にとっては難しい。そして苦しいものだ。
認知症の介護者にとって必要なのは、『傾聴』の姿勢だ。『傾聴』は、臨床心理士などプロが行う心理カウンセリングの技法の1つだが、そのノウハウは日常の中で家族に大いに活用できるという。
「ノウハウとしては、言葉のとおりひたすら“聞いてあげる”こと。会話や相談ではなく『傾聴』です。その人が言いたいことはもちろん、寂しさや不安を“理解しよう”として聞くことが大切なのです。もっと言えば“理解する”だけでいい。慰めや問題解決は『傾聴』ではありません」
そう語るのは、高齢者や介護家族の相談にも乗っている臨床心理士の原千恵子さんだ。しかし、中には口下手な人もいる。心を閉ざして話さない人もいるのではないか。
「確かに、なかなか言葉がたくさん出てこない人はいます。そんなとき、施設などの場合は外へ連れ出し、気ままに散歩したり、道端に咲く小花を愛でたりします。普段、あまり表情豊かでない高齢者も、きれいなもの、かわいいもの、そしておいしそうなものなどには心が動くものです。そんなウオーミングアップも大切です」(原さん・以下同)
また、話し手と聞き役は真正面に向き合うのではなく、斜めの位置がよいという。真正面で見つめる形になると威圧感があり話しにくい。話し手が自由に目線を動かして、リラックスして話せることが重要だ。
「そして知っておいていただきたいのは、人は誰でも自分のことを話したい、知ってほしいと思っているということ。人間は社会的な動物なのです。他者とのかかわりの中に喜びや生きがいがある。相手がうまく話せなくても、焦らず、じっくり聞いてください」
じっくり聞くというのはどういうことなのか?
「話を聞くというシーンは日常的のようですが、『傾聴』は少々違います。聞き手は相手の話に集中し、一生懸命、理解しようとしますから、大変なエネルギーを要するのです」
たとえば家族が日常会話をするように、四六時中『傾聴』をしていると、聞き手側は疲労困憊してしまうという。
「『傾聴』は心をケアするセラピーで、きちんとした理念と、ある程度の知識やテクニックを要します。私たちプロが行う『傾聴』も1回あたり1時間くらい。週1回、月1回など、日程を決めて行います」
また臨床心理士などの資格は必要とせず、一定の講習を受けて地域活動などに参加する傾聴ボランティアもある。
「私の主宰する講座には、家族介護や子育てを経験する中で、心のケアの重要性に気づいた一般の主婦のかたが、数多く参加されていることに驚きます。『傾聴』のテクニックは簡単ではありませんが、対象は人間の心。一生懸命、生きている人なら誰でも務まります。家族による『傾聴』ならより絆は深まるはずです」
なお傾聴ボランティアの問い合わせや依頼をしたい場合は、各自治体の社会福祉協議会や地域包括支援センターへ。
※女性セブン2018年10月11日号