「クールジャパン」の一角を成しているのは間違いなく日本の「伝統」だろう。だが、私たちが「伝統」と信じているものの中には歴史の浅いものが結構含まれている──。
日本の結婚式は元々、参加した人たちに結婚を認めてもらう人前式だった。それが、神の前で結婚を誓う神前結婚式に変わっていったのは、室町時代のことだ。
「当時、武家の世界の結婚の儀式で、三々九度の盃を神前で取り交わしたのが始まりです。ただし、江戸時代までの八百万の神様と、明治維新以降の国家神道の神様の概念は違うため、武家世界の神前結婚式と、20世紀の神前結婚式は違います」(千本秀樹・筑波大学名誉教授)
今に通じる神前結婚式が広まったきっかけは、1900年(明治33年)の皇太子嘉仁親王(大正天皇)が行った神前結婚式だ。
「もともと天皇家の宗教儀式は仏式で、神式の儀式形態は明治維新以降に作られました。それがこの時代に結婚式にまで広がったのです」(千本教授)
これを機に、日比谷大神宮(現・東京大神宮)が一般の人々に向けた神前結婚式を始め、広まっていった。
※SAPIO2018年9・10月号