9月30日、東京・光林寺で樹木希林さん(享年75)の告別式が開かれた。ミステリアスな魅力を持つ樹木さんだが、この日、娘夫婦によってその純粋さと気高さが明らかにされた。その生き様、心意気、残した言葉は私たちの人生をも変える。
嵐の直前の東京には、午前中から湿気を含んだ重たい空気が立ちこめている。その陰鬱さをかきわけるようにして、多くの芸能人が最後の別れを告げようとしていた。
彼らは、遠巻きに見守るファンの前を通り、一人ひとり、本木雅弘(52才)、内田也哉子(42才)夫妻と3人の子供らと言葉を交わしてから、本堂へと入っていく。その本堂の祭壇には、樹木さんが慈愛に満ちた微笑みを浮かべる遺影が掲げられていた。
告別式が始まり、読経が終わると、橋爪功(77才)がマイクの前に立った。樹木さんの出演した映画『万引き家族』の是枝裕和監督(56才)の弔辞を代読するためだ。是枝氏は『万引き家族』の公開挨拶日のことをこう綴っていた。
《私の腕につかまりながら杖をついて壇上にのぼったその日、別れ際にこう言いました。“もうおばあさんのことは忘れて、あなたはあなたの時間を若い人のために使いなさい。私はもう会わないからね”》
すすり泣く声が響く中、参列者はじっと耳を傾ける。
橋爪に続いてマイクの前に進んだのは、その『万引き家族』でも共演していた安藤サクラ(32才)だ。海の向こうで新しい夫婦のあり方を模索してきたオノ・ヨーコ(85才)からの弔電を代読した。
《樹木さん、このあいだニューヨークでお目にかかったばかりなのに、あっという間に旅立ってしまわれ、本当に残念です》
こう始まる言葉は途中から、残された内田裕也(78才)に向けられた。
《どうせ死んでしまうんだからなんて思わないで》《ほかの人のためにも自分を大事に》。そうした言葉を、車椅子に座った内田は身じろぎもせず聞いていた。
この日、喪主の内田は一言も発していない。結婚後わずか1年で別居し、しかし、死がふたりを分かつまで夫婦であり続けた関係と同じように、どこかつかみどころのない感情が、胸の中を去来しているのだろうか。