児童虐待や育児放棄といった問題が深刻化する昨今。大人からの愛情を受けてこなかったがゆえに非行に走るということは少なくない。公立中学の教員をしているという58才の女性が、ある教え子のケースを紹介する。
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公立中学校の養護教諭をしています。多くの子供たちと接してきましたが、どうしても忘れられない子がいます。
それは、今から10年ほど前のこと。私は、都内でも貧困層の多い地域にある中学校に配属されました。
生徒たちの多くは、大人から怒鳴られ殴られて育っていました。つまり彼らにとって、「大人=敵」だったんです。ですから、教師を見かけたら、攻撃してくる子たちばかり。
なかでもひどかったのは、不良グループに入っていた14才の男の子でした。小学校中学年程度の身長しかなく、ガリガリにやせているのに、気に入らないことがあると見境なく暴力をふるう。あれほど小さい体のどこにそんなエネルギーがあるのか、本当に不思議でした。
そんなある日、彼が校内でリンチされ、肋骨を折られたんです。救急車が来るまで、保健室で私と待機していました。彼を見ると、真冬にもかかわらず、靴下を履いておらず、かかとはひび割れて血が出ていました。
私は黙って、彼のかかとにクリームを塗りました。彼は骨折の苦痛に耐えつつ、「何すんだ、やめろ」と、抵抗していましたが、私が予備の靴下を履かせると、「こんなこと…、してもらったのは初めてだ」と、涙を流したのです。聞けば、両親に放置されて育ち、食べ物といえば給食だけ。背が低く、キレやすいのは、栄養不足のせいだったのです。
私は彼が退院してから卒業するまで、私の給食を分けてあげ、話し相手になりました。彼はその後、夜間高校に進学。入学当初は不真面目で留年はしたもののなんとか卒業し、就職したと風の噂で聞きました。
中学を卒業してから5年後、スーツを着た彼が、突然私を訪ねてきました。
「やっと正社員になったので、初任給で買いました」
そう言って差し出してくれたのは、靴下のセットでした。
「先生がいたから、今のぼくがあります」
私のしたことは、本当にささやかなこと。むしろ、この学校に赴任して以来、なくしてしまった養護教諭としての自信を、彼が取り戻してくれました。子供の非行は、たいてい大人に起因します。定年まであと数年、少しでも多くの子供たちの心に触れられればと思っています。
※女性セブン2018年10月18日号