【著者に訊け】滝沢志郎氏/『明治銀座異変』/文藝春秋/1700円+税
あの空気を読むではない。これは、元号一つでは変わりようもない江戸の人情や、欧化政策への期待と反発が複雑に入り混じる、明治の空気を読む小説でもあった。
滝沢志郎著『明治銀座異変』は、銀座煉瓦街にある〈開化日報社〉を舞台に、散切り頭の辣腕記者〈片桐〉や見習探訪員〈直太郎〉が遭遇した銃撃事件の顛末を追う。なぜか男の子の格好をした直太郎こと加藤直は、秩父出身の13歳女子。ある時、鉄道馬車の馭者が狙撃され、現場に居合わせた彼女は、客を乗せて暴走する馬車を顔見知りの俥夫〈久蔵〉の人力車で追走してピンチを救い、一躍時の人に。
が、救世主は他にもいた。勇敢にもデッキに飛び移り、瀕死の馭者に蘇生術を施した美貌の乗客〈山本咲子〉こと、あの山川捨松(すてまつ)だった。
昨年『明治乙女物語』で清張賞を受賞した著者自身、大学では近現代史を専攻。実は本作で描く明治16年は、前作の舞台の5年前にあたり、久蔵や捨松ら、登場人物が重複するのも楽しい。