待機児童問題が長引くなか、行政や企業は、待機児童の受け皿となる保育所を増やし続けている。それが問題解決の一助となるのは確かだが、「質が置き去りにされている」という新たな問題も生まれている。保育所問題に詳しい保活アドバイザーの長岡美恵さんは、その理由をこう話す。
「新設園では、新たに保育士等の職員の確保が必要になります。通常なら、系列園から園長や中堅職員を異動させ、理念や質の統一に努めるのですが、急拡大している事業者ではそれが追いつかず、園長をはじめ職員全体が若年化しています」(長岡さん、以下「」内同)
なかでも厳しいのは都市部の保育所だという。
「必要な職員の確保が開設直前までかかることも多く、人材の質をどこまで見極められているのか気になります。そしてようやく集まっても、短期間で辞めてしまう職員も多く、人も園も育ちにくいのが現状です」
今は売り手市場のため、よりよい労働環境を求めて次々と転園していく保育士が後を絶たないのだ。
職員の若年化や人材流出で、職員体制がなかなか安定しないと、どんな問題が起きるのか。
「子供は大人がまさかと思うことをするもの。職員には、注意力と同時に事故の一歩手前の“ヒヤリハット”経験が問われますが、経験の少ない職員ではその“まさか”を予知する力がベテランより劣ります。新人・若手が多いクラスでは人を多めに配置するなどの配慮をしなければ、思わぬ死角が増え、事故のリスクが高まるのです」
◆開設後の監査も追いつかない
こうした問題も、行政によって是正できればいいが──。
「本来、園には定期的に行政の監査が入ります。職員体制に始まり、お昼寝のチェック体制、献立、衛生面、園児の健康管理まで多面的に監査するわけですが、これだけ施設が増えると監査もなかなか追いつきません」
長岡さんが特に注目しているのが、今急増している『企業主導型保育事業』の施設。これは2016年度から内閣府が待機児童対策の切り札として始めた事業で、企業が従業員の子供や地域住民の子供を預かる保育施設である。
「企業主導型は認可と比べて、運営実績や財務余力などの審査は厳しくないため、参入障壁は低い。それでいて認可並みの補助金を受けられるため、さまざまな事業者が新規参入しています。運営の質は玉石混淆なので、保護者は見学などでしっかりと質を見極めることが必要です」
※女性セブン2018年10月25日号