待機児童問題に対処すべく、行政や企業は保育所を増やし続けている。しかし、施設が増える一方で“保育の質”が劣化しているとの指摘も多い。そして、保育の質の向上に真摯に取り組まない施設では、職員体制はさらにおざなりになる。そんな“ブラック保育所”の実態を調べてみた。
◆表面化しづらい“心理的虐待”
多数の保育士に取材してきたジャーナリストの小林美希さんは「ここ3年以内でも報道に至らない問題が多数起きている」と話す。
「例えば、ある認可保育所では、4才の男児が保育士の言うとおりに着替えなかったことを理由に、保育士が2人がかりで扉を押さえて男児を1時間以上部屋から閉め出し、おやつを食べさせませんでした。男児は泣き続けたあげく白目をむいて過呼吸に。迎えに来た母親には笑顔で、“男児がけんかして泣いた”と嘘の報告をしたそうです」(小林さん、以下「」内同)
公園に散歩に出ることもほとんどなかったこの園では園児への心理的虐待が日常的で、現場を目撃していた派遣保育士は胸を痛めながらも、立場上何もできなかったという。
「こうした“心理的虐待”は、死亡や傷害事故と違い表沙汰になりにくく、保護者も異変に気づきながらも、保育士に“友達とけんかして泣いた”などと言われれば反論できません。施設側は、“嫌ならどうぞ辞めてください”と強気で、保護者はそれに抗えないのです」
他にも「0才児から2才児までを部屋の一角に集めて何時間もテレビを見させ、その間保育を一切行わない」「食事のテーブルは食事の前も後も拭かない」など小林さんが聞いた悪質な保育施設の事例は枚挙にいとまがない。
「“保育士は薄給できつい仕事だから、手を抜いてもいい”という共通認識ができあがり、園児を思う保育ではなく、職員の都合を優先した保育が横行しつつあるんです」
【過去5年間に起きた保育所での重大事件の一部】
<虐待>
2014年6月 園庭に放り投げ大けが
跳び箱の練習中、5才男児が列に並ばないことに腹を立て、認可保育所の職員が男児の両脇を抱えて園庭に放り投げ、全治6か月の大けがを負わせた。
2015年9月 唐揚げにわさびを塗る
東京都北区赤羽に認可保育施設で、保育士が4才男児の口にわさびを塗った唐揚げを押し込んだ。他にも、別の男児の両手首を縛り、口に粘着テープを貼り付ける暴行も。
2017年1月 平手打ちで鼻血
兵庫県神戸市の市立保育所で女性保育士(60才)が5歳時の頬を平手でたたき、鼻血を出させた。
2018年3月 床にたたきつけ骨折
滋賀県大津市内の認可保育所の保育士が、担任として受け持ったていた1才児の両脇を抱えて高さ約1.5mから床にたたきつけ、左足首骨折で全治6週間の重傷を負わせた。