秋はドラマにおいても名作が生まれやすいとされる季節である。いよいよ幕が開いた。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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続々とスタートした秋ドラマ。風変わりなタイトルが耳に入ると、興味をそそられます。最後まで楽しみながら視聴できる奥深い作品、心に響く作品に出会えるのか。滑り出しのこの時期は特にワクワク。
タイトルを見回してみると……『僕らは奇跡でできている』(フジテレビ系火曜21時)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系水曜22時)、『僕とシッポと神楽坂』(テレビ朝日系金曜23時15分)、『今日から俺は!!』(日本テレビ系日曜22時)……と、ある傾向性が見て取れる。それは、「僕ら」「私たち」「僕」「俺」と一人称タイトルが並んでいること。
つまり、自分語りです。他者から見えている姿ではなく、主人公の「本音」「内面」に軸足を置いたストーリーを予感させます。
中でも1番の話題作と言っていいのが『獣になれない私たち』。新垣結衣×松田龍平のW主演の上に、『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』の野木亜紀子オリジナル脚本とくれば、がぜん期待は高まります。
10月10日の第一話は……ガッキーが「普通」を演じる新鮮さに、しみじみと感じ入りました。主人公はアラサーOLの晶(新垣結衣)。「常に笑顔で」「仕事は完璧」と職場で理想の女を演じ、パワハラ社長ややる気のない部下に振り回され、結果として疲弊しきっている。いわば、どこにでもいるような過剰適応型OLの、内面の葛藤。
一方、松田龍平が演じるアラサー男・恒星は、見かけはお調子者で世渡り上手だけれど、どこかそんな自分に限界を感じている会計士。こちらも巷にいるいるタイプ。
「バカになれたらラクなのにね」と恒星は言う。つまり晶も恒星も、タイプは違うけれどバカになれない「頭でっかち」な大人。この人たちが、考えすぎることなく「獣のように」自然にふるまえる日は来るのか? 心の自由を手に入れることはできるのか? ドラマが発する問いかけは、日常的でかつ根が深く、実に本質的な問題提起でもあります。