警察の内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、元刑事が明かす殺人事件の凶器についてのエピソード。
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「俺たちには見えない物が、あいつには見えていた」
元刑事は、部下だった若手刑事のことを思い出し、そう言った。
「目をこらして見たんだが、誰の目にもそれは見えなかったんだ。だがあいつは、はっきりとその形が見えたと言ったんだよ」
彼らが目をこらして見ていたのは、ある事件現場の近くを流れていた川の底。護岸はなだらかなコンクリートで覆われ、幅もなく水位もあまり深くないその川の川床に、凶器は埋まっていた。
その事件とは、犯人の女が交際していた60代の男性を口論の末に殺害して切断、男性の自宅の床下収納に死体を埋めたという事件である。女は髪を茶色に染め派手な化粧で若作りをしては、年配の独り暮らしの男に声をかけ、貢がせていたという。被害者(ガイシャ)も女に声をかけられ、持っていた金や年金を貢いでいた一人だ。
はた目に二人の交際は順調に進んでいると思われていた。ガイシャは女と一緒になるつもりだったのだ。ところがいつの間にか、ガイシャの行方がわからなる。不審に思った親戚が、何度も女に行方を尋ねてみたがはぐらかされて終わっていた。そこで警察に相談し、捜索願を出したのだ。
元刑事は、捜索願の出されたガイシャの自宅を調べに行った。家の周囲をぐるりと見て回る。シンと静まりかえり不信な様子は何もない。ところが家の中に一歩、足を踏み入れた途端、彼は瞬間的に息を止めた。殺しの臭いが鼻をついたのだ。殺しの現場に漂う独特のあの臭いだ。
「仏の臭いというのかな。腐敗臭というだけでない一種異様な、淀んだような重苦しい臭いでね。その臭いは沈んでいるように、歩く度に足元から舞い上がってくる感じがしたんだ。台所に入ると足元に絨毯が敷いてあった。だいたい台所に絨毯なんておかしいだろう。敷かれていた絨毯をゆっくりめくると、床下収納が表れた。それを開けるとその中にさらに蓋があり、何重にもガムテープで目張りがしてあったんだ」
臭いが漏れるのを防ぐためだ。
元刑事は慎重にガムテープを剥がした。臭いがどんどんきつくなっていく。プラスチックの蓋は軽く、簡単に持ちあがった。中をのぞき込む。その瞬間、息をのんだ。
「中にコンクリートで固められた白骨が見えたんだ」
すぐさま警察は交際相手の女の身柄を確保、まずはガイシャの銀行口座から金を引き出した窃盗容疑で逮捕した。
容疑者は、口論し金を盗ったことは認めたものの、殺人に関しては完全否認を貫いた。鑑識の結果、死体が埋められていたコンクリートの中から女の髪の毛が出てきた。死体を埋めたのは間違いなくこの女だ。