親が認知症になると、本人だけでなく家族の困惑も大きい。もの忘れや生活上の失敗など、目に見える変化はどうしても気になるし、接し方に戸惑ってイライラが募り、思わず声を荒らげてしまうこともある。
悲しく切なく、親とはいえ、遠い存在に思えてしまうのも、正直な気持ちだ。50代。同年代の間でも“親が認知症に”という人が多い。そう遠くない将来には当事者になる可能性もある。だからこそもっと身近なこととして知りたい。
認知症診療の第一人者、東京慈恵会医科大学教授の繁田雅弘さんに、日本人にいちばん多いアルツハイマー型認知症について聞いた。
◆昔のイメージから大きく変わってきた認知症
「認知症というと、いまだに“何もわからなくなる”というイメージが根強いのでしょうか? 認知症の理解がそこを出発点にすることが、そもそも間違っているんですよ」と、繁田さんは言う。
記者の母(83才)は78才時の認知症診断当時も、大混乱していた。人生最大のストレスともいわれる配偶者(父)の急死が重なったこともあるが、それまで見たことのない表情、言動、そして認知症の典型的なもの忘れ、妄想が次々に現れ、私自身も混乱し、とても意思の疎通はできなかった。母はもう私の知る母ではない。まさに“何もわからない異人”に思えた。
「確かに昔は、認知症になると“もうどうしようもない”“本人はどうせわからない”といった認識で、閉じ込めるような医療だった時代もありました。でもここ30年くらいの間に認知症に関する研究が急速に進み、いろいろなことがわかってきたのです。
まず、アルツハイマー型認知症は、人格が変化する病気ではありません。脳の機能低下により徐々にできないことが出てきて生活上の失敗が増え、そのことで不安になって、一見人が変わったように反応することもありますが、その奥にある元来の性格や人間性は変わらない。大切にしたいことや悲しいこと、嫌いなことも元来のままです。家族こそ、そのことを忘れてはいけません」
そしてアルツハイマー型認知症の場合は、かなり進行してからも理解力や判断力は維持されることが多いという。
「たとえば映画や音楽鑑賞、読書など、鑑賞したことの記憶は失われるかもしれませんが、その瞬間、瞬間を理解し、楽しむことはできます。高度の認知症で言葉を失ったように見える人でも、こちらからたくさん話しかけ続けていると、ふと表情が変わったり笑みを浮かべたりすることもある。決して“わからなくなって”はいないのです」
何より驚かされるのは、認知症研究が進む今、一人ひとりの認知症の進行が緩やかになる傾向にあるのだという。
「10年前と比べればスピードは半分、20~30年前の3分の1ほどになったと言ってもいい。認知症になっても、軽度や中等度でいる時期が2倍、3倍と延びているので、早い段階から医療が介入すれば高度まで進行する人は減ってきています。少しの支援や介助で普通の生活やひとり暮らしもできる軽度のままで、天寿をまっとうする人が多くなっています」
※女性セブン2018年10月25日号