かつて相続税は「お金持ちにだけかかる税金」だった。それが2015年の相続税増税で、基礎控除が大幅に縮小され、「普通の人も納める税金」に変わった。
そうしたなかで、2018年7月に相続に関する民法の規定を40年ぶりに見直す改正案が国会で可決・成立した。2019年1月以降に順次、施行されていく改正民法によって、相続の常識は大きく変わる。
変更の多くは、高齢社会への適応を進めるものだ。「残された高齢の妻が住む場所に困らないように」「介護に尽くした人に報いることができるように」──変更後の相続ルールは、上手に利用すれば心強い味方となる。ただ一方で、新たな落とし穴も生まれている。相続によって家族関係にヒビが入る“争続”を避けるための新常識を解説する。
今回の大改正の大きなポイントの1つが、「配偶者の権利の拡充」だ。
妻と子が相続人となるケースでは、民法で定められた法定相続分に従うと、遺産は配偶者に2分の1、残り2分の1が子供たちの人数によって配分される。しかし、現行制度下では、法定相続分通りに遺産分割しようとすると、妻が自宅を処分せざるを得なくなるケースが少なからずあった。夫を失ったばかりの高齢の妻が、長年住み慣れた家からの引っ越しを余儀なくされるのは、肉体的にも精神的にも負担が大きい。
そうした事態を避けるため、今回の法改正で「配偶者居住権」が認められるようになった。その違いは大きい。別掲図は資産価値4000万円の自宅と、現金2000万円の計6000万円が遺産として残り、妻と子供2人が相続する場合をシミュレーションしたものだ。