認知症の母親(83才)の介護にあたる54才のN記者(女性)。自分もそのうち認知症になるのではないか…と、認知症検査を受けることを決意した。
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「きっと私も認知症になるだろう」と若い頃から思っている。50代に入ってから頭の中に霧がかかるような妙な違和感を覚え始めたのだが、“頭に霧…”というのは母が認知症診断を受けた頃、盛んに言っていたキーワードなのだ。
もちろんもの忘れもひどい。いつか仕事で大失敗をするような恐怖感にも苛まれた。更年期症状かとも思ったが、どうしても自分の脳が気になる。
まだ決定的な支障はないからMCIと呼ばれる認知症予備軍かも。そうに違いないと思ったとき、不安はなかった。認知症でもうまく生き抜いている母を見ているし、たくさんの専門医の先生がたに、勇気づけられる取材をしている。
白黒つけて前へ進もう。記者としての興味も胸に秘め、前のめりに臨んだ。“認知症・MCIが気になる人のための”という専門クリニックを選んだ。費用は、健康保険の3割負担で1万4000円弱だった。
1回目の来院では学歴や職歴、既往歴などの予診、身長体重、血圧などの体の検査、長谷川式、MMSEなどの認知機能テスト、心理テスト、血液検査、MRI検査。
2回目には検査の結果。脳の萎縮や出血はなし。長谷川式は満点だったが、ほかのテストでMCIの疑いが残り、ウエクスラー検査と呼ばれる難しい記憶検査を行った。図形、言葉、数字、物語などのテストがあり、面白いようにできるものと、頭が真っ白になって答えられないものが顕著だった。
3回目、結果告知。結論は「認知症ではない。とても濃いグレーだがMCIとも言えない」。記憶力が非常によく、それに対して集中・注意力がかなり低く、その落差のために抑うつ気味。
注意力の低さが生来のものか、原因のある機能低下か、経過観察をした方がいいとのことだった。集中力の低さは実感していた通り。もの忘れがひどいのは記憶力に任せてやみくもに記憶し、収集がつかない状態か…というのは自己分析。
頭の中の違和感として感じたときは得体のしれない恐怖だったが、脳の画像を見ながら客観的に指摘されると、年齢なりに古びて衰えた自分と対峙したような、がっかり半分、安堵半分。
母も79才のときに同じ経験をした。認知症が進行しつつも、腹をくくっているように見える母の心境を垣間見たようで、認知症や人の脳が少し身近に感じられるようになった。
医師によると、40、50代で私と似たような悩みや疑問を抱えて検査に来る人は少なくない。ある50代女性は、母ものんでいる認知症薬を処方され、頭がスッキリとして改善されたという話も聞いた。
この経験を認知症診療の第一人者、東京慈恵会医科大学教授の繁田雅弘さんに話すと、「検査もよいけれど、50代に私がすすめるのは、いつか認知症になっても続けられることを探し、始めること。趣味でも勉強でもいい」と、助言してくださった。
※女性セブン2018年10月25日号