その時代ごとに名作が生まれた刑事ドラマでは、常に女性刑事が物語の大事なカギを握ってきた。同僚刑事との恋愛や結婚の話が絡む関根恵子や長谷直美(いずれも『太陽にほえろ!』)のような“庶民派”、一瞬で場を明るくする浅野ゆう子(『太陽にほえろ!』)や関谷ますみ(『特捜最前線』)のような“マスコット派”、本格的な捜査をする藤田美保子(『Gメン’75』)や江波杏子(『非情のライセンス』)のような“ハードボイルド派”──。
映画監督の樋口尚文氏によれば、1970年代の刑事ドラマにおける女性の役割は主に3つに分類できる。1980年代もその傾向が続く中、1982年の『女捜査官』(テレビ朝日系)はタイトル通り、女性が主人公となる。フリーピストルの五輪代表候補だった女性警官の樋口可南子と教官の樹木希林が刑事に抜擢されるという設定で、樋口がホステスに扮したりもした。翌年には『新・女捜査官』(テレビ朝日系)で25歳の名取裕子が抜擢される。大ヒットまでには至らなかったが、歴史を振り返る上で欠かせないシリーズだ。
従来の女性刑事のイメージを覆したのは、1986年開始『あぶない刑事』(日本テレビ系)の浅野温子だ。社会学者の太田省一氏が話す。
「署内で、馴れ馴れしく柴田恭平や舘ひろしに接していた。つまり、女性が“紅一点”から“同僚”に格上げされたんです。折しも、この年に男女雇用機会均等法が施行。そんな社会情勢も反映されているのでは」
浅野はそれまでの女性刑事と一線を画した。橋の上で機動隊が数十人向かってくる中、1人で止めに入るシーンを演じた時には、踏み倒されて顔に大きな靴跡がついていた。企画に携わった岡田氏が振り返る。
「浅野君は、コミカルな演技も平気でやるんですよ。脚本に描かれているシーンをどう演じるかは俳優さんにかなり任せていました。署内の場面はふざけないでくれと何回か言ったのですが、全然効き目がなくて大騒ぎしていましたね(笑い)」