認知症の母(83才)を介護する女性セブン・N記者(54才・女性)が、介護の中で体験した様々なエピソードを紹介。今回のテーマは高齢者と「食」だ。
* * *
歯周病でいつ歯を失ってもおかしくない状態ながら、今日も嬉しそうに食事を楽しむ母。「治療より、おいしく食べられることを目標に」と言うかかりつけの歯科医の神対応に、母の貴重な生きがいが1つ、守られているのだ。
◆食事中によくむせていた父。気づけなかった後悔が今も…
「そばはやっぱり東京がいちばんね」
「そりゃそうだよ」
これが母と今は亡き父の合言葉のような口癖だった。わが家は昭和の典型的なサラリーマン家庭で、ぜいたくはしないが、さんまや新米など初物をありがたがったり、たまの外出で楽しむそばの味わいを語らったりしていた。父がリタイアした後は少し格上げして、天せいろを食べによくふたりで出かけていたようだ。
父の生前は「たぶん父母とも認知症だろう」と思いつつ、生活が回っていればよしとし、老いには気づかぬふりをしていたのだが、そういえば一緒に行ったそば店で、父はよくむせ込んでいた。
「急いで食べるからよ」と、その時は冷たく言い放ってしまったが、最近になって高齢になると噛む・のみ込む機能が衰えることを知った。
在宅介護をしている人は、硬い肉や野菜を小さく切ったり、やわらかく煮たりするのだという。『伴走介護』の漫画を描いてくれている、なとみみわさんは、義母がよくひき肉を気管に詰まらせるようになり、ひき肉料理を避けていたと言うし、この春、取材させていただいた俳優の河合雪之丞さんも、93才の実父が麺類をすするとむせ込むため、乾麺を半分に折って調理していると教えてくれた。
今となっては父にはかわいそうなことをしたと思う。あの頃に知識があれば、もう少し気を配ることも歯科医院に誘うこともできたはずだった。
◆優先するのは治療か食か。寄り添ってくれる医師に感謝
母がひとりになり、認知症検査や要介護申請などに追われて、いちばん後回しになったのが歯科受診だ。
案の定、母の口の中は歯周病だらけ。歯根がまともに残っておらず、普通に食べられることが奇跡だと言われた。しかもそう言われてから1年以上経つ。今も奇跡的に残っている歯で食べ続けているが、家族はヒヤヒヤしている。