「夏休みに入ってすぐ、昼間、娘とふたりでいる時を選んで、がんであることを伝えました。『今まで話さなくてごめんね。これからは何でも話すから、何か聞きたいことがあったら何でも聞いてね』って。そうしたら、『ふ~ん、ママ、がんだったんだ』という感じで拍子抜けするというか、『あっ、そう』みたいな反応だったんです」
そんなエピソードを語ってくれたのは、東海地方に住む主婦の由紀さん(43才)だ。一人娘のさやかちゃん(12才)は、その後おもむろに黙々と絵を描き始めた。そして、ペンを走らせながらこう言った。
「ママの応援団になる」
母親ががんだと知らされたさやかちゃんは、夏休みの自由研究でがんについて30ページもの大作にまとめた。
さやかちゃんが参加し、とても有意義だったのが『がん哲学外来メディカルカフェ どあらっこ』で、この会は日本初の子供たちによるがんカフェだ。同会は、自身ががん治療を受けた経験や、親のがん闘病期を支えた経験を持つ愛知の高校生(発足当時は中学生)4人らによって運営されている。
メンバーの彦田栄和さん(16才)に話を聞いた。
「がんについて学ぶことも目的ですが、いちばんは、来てくれた人に明るく笑顔で帰ってもらうこと。小・中学生や高校生らが主体なので、がんとは関係ない話だけで終わる時もあります。治療でしんどかったり、誰にも相談することができず深く考え込んでいる人も、少しでも同じ境遇の人たちと思いを共有できる場にしたいです」
彦田さんの母・かな子さん(48才)も、乳がんの経験を経て、メディカルカフェを開いている。
「みんなと話しているうち、母が病気のことを自分に気遣っていたんだということも知ることができました。これからはがんにかかわる人と、がんにかかわりのない人たちとの懸け橋になるように頑張っていきたいです」(彦田さん)
カフェは3か月に約1回のペースで開催され、50~70代の参加者も多い。今後は小学生らにも気軽に遊びに来てもらいたいという。
◆現在のがん教育とは?
「小学生のがん教育では、知識や予防よりも心構えを学ぶことが大切です」
と語るのは、2008年に「がん哲学外来」を開設し、全国に広めている病理医の樋野興夫さん。これまでに約3000人の患者や家族らの悩みに寄り添ってきた。
「がんは予防してもなりうる病気。自分ががんになった時、両親や周りの人ががんになった時にどういう対処をするのかを学ぶといいでしょう。相手が嫌がることや深入りしたお節介はしてはいけません。世の中には相手の気持ちに共感するよりも、自分の気持ちを優先して接する人が多すぎる気がしますね。まずは存在自体が周囲を暗くしない人になること。それは、がんの人もそうでない人も誰しも同じです」
健康な時には気づかなかったけれど、がんになって気づかされることもある。
「病気であっても病人ではない。がんも個性の1つです。自分の役割や使命に気づき、それが生きがいへと変わることが、人生の中で何よりもうれしいことだということを子供たちに伝えること。それが、がん哲学の理念だと思います」
※女性セブン2018年11月1日号