「今上天皇ほど、国内外の各地を訪問された天皇はいません。各種資料を丹念に調べると、即位後に限っても『旅』の総移動距離は62万kmを超えます。地球を約15周半もできる距離です。天皇皇后両陛下は、平成の30年間という“マラソンコース”を、一つひとつ丹念に心を込めた旅を通じて“全力疾走”で駆け抜けられたという印象を抱きます」
そう語るのは、『旅する天皇 平成30年間の旅の記録と秘話』(小学館)を上梓した歴史探訪家で、文筆家の竹内正浩さんだ。
明治大正の天皇は御用邸や軍施設に泊まることが多かったが、昭和天皇は土地折々の名旅館などを好まれ、平成の天皇陛下はより国民の近くを旅するようになったという。
「天皇皇后両陛下がご一緒にお出かけになられるのも、平成になってからのことです。日本の中心である皇居にいる両陛下が、島嶼部を含む遠く離れた土地を訪れて市井の人々と交流されることこそ、平成の“旅する天皇”の最大の特徴であり、旅先では感慨深いさまざまなエピソードが生まれました」(竹内さん、以下「」内同)
■平成5年(1993年)4月23~26日 沖縄県
1993年4月。即位後、初めて沖縄の地に降り立った両陛下は、格別な気持ちになられたに違いない。
先の大戦で戦地となり、多くの犠牲者を出した沖縄に、両陛下は長く心を寄せられてきた。皇太子時代の1975年に沖縄を初訪問した際は、献花に訪れた「ひめゆりの塔」前で、過激派から火炎瓶を投げつけられた。1つは両陛下から2m足らずの献花台を直撃し、燃え上がった。
「しかしその夜、両陛下は事件を非難することはせず、『沖縄の苦難の歴史を思い、これからもこの地に心を寄せ続けていく』と表明する談話を発表されました。そして言葉だけでなく、実際にその決意を行動で示されました」
歓迎と反対が交錯する複雑な県民感情のなか、皇太子として計5回沖縄を訪問された。1993年に天皇として初めて沖縄を訪れ、太平洋戦争の遺族代表130人に向かって、メモを持たず6分間にわたって哀悼の意を表された。
両陛下の沖縄訪問は即位後だけで6度を数える。沖縄への旅は、両陛下の平和にかける思いの表れである。
※女性セブン2018年11月8日号