最後の一手での、大逆転勝利。しかし、11才の新チャンピオンは、表情を変えることなく、静かに数回、うなずいただけだった。それは対戦相手である、一回り以上年上の元世界王者への気遣いにも見えた。
オセロの世界チャンピオンを決める「第42回世界オセロ選手権」が、チェコの首都プラハで10月9日から12日まで開催された。24の国と地域から82人が参加し、個人及び国別対抗部門で勝負に火花を散らした。
個人部門で優勝したのは、今大会が初出場となる小学5年生、神奈川県在住の福地啓介くん(11才)だ。11才での優勝は、歴代最年少。当時15才だった日本人が持っていた最年少記録を36年ぶりに更新した。
年齢だけではなく、大人顔負けの冷静沈着な戦いぶりも称賛された。日本オセロ連盟事務局専務理事の石本一博さんは話す。
「1日6~7時間、ただ座っているだけでなく、何十手先も読みながら集中力を維持するのは大人でも大変ですよね。先を読む力、考える力がどれだけあってもそれを長時間維持するというのは、そう簡単なことではありません」
この大会では1試合で3局を戦ったが、福地くんは3局目にメガネをかけていた。
「福地くんは視力が悪いんだと思うんです。ただ、カメラの前などではメガネを外すことが多いようです。本人は、集中したいときにメガネをかけているつもりはないと話していましたが、結果的には、メガネをかけていた方がクリアに見えて集中できるのではないかと思います」(石本さん)
「大胆で、恐るべき一面もある」と指摘するのは、これまで何度か福地くんと対局をしている2017年オセロ世界チャンピオンの高梨悠介さんだ。
「大会前などにトッププレーヤーが練習対局するときは、緊張感が高まり、他のプレーヤーが近づきにくい雰囲気になることがあります。しかし、福地くんはそういうときでも気づいたらオセロ盤の横にいて『こうじゃないですか』と意見するような親しみやすいところがあります。
それでいて、いざ対局すると、得体の知れない化け物のような集中力を発揮して、その場は異質な空間になる。今まで対戦したことのない相手です」
そうした落ち着きぶりは、優勝後の「今は嬉しいっていうことしかないです」というコメントや、その気持ちを誰に伝えたいかと問われての「世界中の人に伝えたいです」という回答にも垣間見られた。
※女性セブン2018年11月8日号