世界で何億人もの登録があるフェイスブックに、ある有名女優が数百人いると話題になったことがある。もちろん、すべてが「なりすまし」だったので運営会社が地道に削除を繰り返している。有名人なら「なりすまし」によるネット上の言動を誰も信用しないが、一般人の「なりすまし」はそうもいかない。「なりすまし」によって人生と生活を奪われ、今も苦しむ人たちについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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「娘はもう自宅にはいません…。救済措置なんて何にもありませんでしたし、とにかく“自分を知る人がいないところへ行きたい”と、今は海外で生活しています」
東北地方某市に住む川北祐子さん(仮名・50代)は、今から約4年ほど前に「ネットなりすまし」の被害者にあった女性の母親だ。もうかなり時間がたったとはいえ、今思い出しても腹立たしく、あの時に感じた恐怖によって眠れなくあることもある。それは本当に突然の、予期せぬ出来事だった。
「下の子(被害者の弟)がある日、姉ちゃんが変な書き込みをしている、と大慌てでやってきました。息子が見せてくれたパソコンの画面には、あるSNSに娘の名前で女性の裸などがたくさん投稿されており、ワイセツな言葉、男性を誘うような言葉が書き込まれていたのです。すぐ娘に問いただしましたが、全く知らないようで、画面を見ると泣きだしました。でも、プロフィールには娘の通う高校名やクラス名も出ている。情けないですが何が起きたのかわからず私もパニック状態で、もしかしたら私たちの知らない娘の違う一面なのかもと、あろうことか疑ってすらいたのです」(川北さん)
学校と警察に相談しつつ、父親がSNSの運営側に連絡を取り、娘の名を名乗るアカウントは二~三日後には消えた。そしてさらに数日後、学校から驚くべき「報告」が川北さんの元に届いた。
「娘と同じクラスの男子生徒が、娘の名前を騙り“悪ふざけ”でやったことだとわかったのです。男子生徒とその親御さん、担任と教頭、校長が自宅に来て謝罪がありました。同時に、男子生徒にも将来がある、と事件にはしないでほしいと男子生徒の両親が土下座をして、賠償金の話までされました。冗談じゃない、娘の将来はどうなるのかと悔しい気持ちでいっぱいでしたが、警察や弁護士に相談しても”事件化しても得られるものはない”と言われるばかりで、本当に泣く泣く、私たちは我慢するしかなかったのです」(川北さん)
こうして“真犯人”が判明しても、川北さんの娘をめぐる状況は、少しも良くならなかった。学校だけでなく、近所中からも好奇の目にさらされ続けたのだ。かたや男子生徒は「反省した」と言いながら、事件の顛末を面白おかしく友人らに吹聴して回り、何事もなかったかのように東京の大学に進学した。一方、川北さんの娘はそうした環境に耐えられず、不登校気味になり学校を辞めたのである。
彼女はその後「私の事を誰も知らない場所に行きたい」と言って海外に留学し、現在も海外で生活している。成人式ですら地元に帰ってこなかったのだという。
「なりすまし被害にあった側はやられっぱなしで、一度コトが起きてしまうと、もうどうすることもできない。賠償金を使い、弁護士さんに頼んで娘に関するネット記事を消してもらったりしましたが、探せば未だにネット上に娘の名前が出てくる。こんな理不尽なことがあるでしょうか?」(川北さん)
ネットで「なりすまし」にあうと、被害者はどうにもできない。泣き寝入りをするしかない──。
同じような被害にあい、今もひっそりと暮らさざるを得ない男性がいる。
「警察に言っても“無視しな”と言われるだけ。弁護士を雇うお金もありませんし、もうネットも見ていない。泣き寝入りするしかないんですよ」