これまで国内外の多く後を訪れ、その総移動距離は62万kmを超えるという天皇陛下。そんな陛下の旅の丹念な調査によって、「平成という時代」や「両陛下の信念」を浮かび上がらせた一冊『旅する天皇 平成30年間の旅の記録と秘話』(小学館)を上梓したのは、歴史探訪家で、文筆家の竹内正浩さんだ。竹内さんとともに、天皇陛下の印象的な「旅」を振り返る。
■平成18年(2006年)3月7日 三宅島
2000年の大噴火で全島避難した三宅島の住民のもとにも両陛下は足を運ばれ続けた。
2001年8月、静岡県下田市に避難していた漁業関係者とその家族を慰問された際、小学2年生の女児が美智子さまに向かって、「おばあちゃん、うちに遊びに来てね」と声をかけた。すると翌日、美智子さまは本当に避難先の少女の家を訪問し、玄関先でこう告げられた。
「いらっしゃる? 会いに来たわ」
まだ寝ていた少女を母親がおぶって対面すると、美智子さまは、「起こすつもりはなかったのよ」と優しく声をかけられた。
その後も両陛下は各地の避難先を何度も訪れ、島民を励まされた。2005年2月に全島避難指示が解除され約2400人が帰島すると、両陛下の強いご希望で2006年3月に三宅島訪問が実現した。
雨混じりのなか、傘もささず現れた両陛下を、東京や下田の避難先で面会した多くの島民が熱烈に歓迎した。そのなかには、中学生になったあの少女の姿もあった。
「住民との交流は“一度会っておしまい”という一過性のものではなく、両陛下はいつまでも心にとどめられます。足かけ5年に及んだ少女と美智子さまの触れ合いがその象徴です」(竹内さん)
災害から日が経つと、自然と報道も減る。しかし、両陛下が被災地を繰り返し訪問されることで、報道によって私たちは被災地の現状を再認識することができる。
※女性セブン2018年11月8日号