天皇皇后両陛下は、ご高齢になられた今も全国に赴き、国民一人ひとりの言葉に、耳を傾けられる。『旅する天皇 平成30年間の旅の記録と秘話』(小学館)を上梓した歴史探訪家で、文筆家の竹内正浩さんはこう語る。
「今上天皇ほど、国内外の各地を訪問された天皇はいません。各種資料を丹念に調べると、即位後に限っても『旅』の総移動距離は62万kmを超えます。地球を約15周半もできる距離です。天皇皇后両陛下は、平成の30年間という“マラソンコース”を、一つひとつ丹念に心を込めた旅を通じて“全力疾走”で駆け抜けられたという印象を抱きます」
平成という時代に、「旅」を通じて寄り添われた両陛下。東日本大震災の際も、足繁く被災地に通っていた。
■平成23年(2011年)福島・宮城・岩手の被災3県と千葉・茨城
2011年3月11日、未曽有の大災害が日本を襲った。その5日後、天皇陛下は6分間に及ぶビデオメッセージで被災者を激励し、不眠不休で救助にあたる人々を労われた。
3月30日、両陛下は東京都足立区の東京武道館を訪れ、福島から来た多くの被災者を励まされた。苦境を切々と訴える人々の手を握りしめ、乳児を抱えた母親にはおむつが足りているか尋ねられた。
この日から7週連続で両陛下は、福島・宮城・岩手の被災3県と千葉・茨城などの避難所を回られた。例えば4月27日には宮城県南三陸町の高台から瓦礫と化した市街地に向かって深く頭を下げ、5月11日には原発事故のあった福島県を訪問された。
「この間は公務もあり、休日はほとんどありませんでした。特に天皇陛下は翌年心臓の手術をされたほどで、体調も悪かった。しかも身内に死者や行方不明者を抱えた被災者一人ひとりの声に耳を傾けるのは、精神的にもおつらかったでしょう。
それを7週連続でこなされたのは、両陛下にとって『旅』は覚悟を持って臨まれるものであり、象徴天皇として、国民に自分たちの姿を示さなければならないとお考えになられているからだと思います」(竹内さん)
※女性セブン2018年11月8日号