ある時は痴漢に疑われた一流企業のエリートサラリーマン。またある時は、何十匹ものアリを飼育し、全てのアリを識別できるアリオタクの研究者――。今期ドラマの児嶋一哉(アンジャッシュ・46才)の役どころである。いまだに人気が冷めやらない『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)など、芸人でありながら、児嶋は今年の連続ドラマにほぼ出ずっぱりで、映画にドラマにと引っ張りだこの状態だ。なぜ児嶋は俳優として求められるのか。お笑い評論家のラリー遠田さんが分析する。
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芸人さんで俳優をする人は増えましたが、その中でも児嶋さんは役者向きだと思います。芸人がドラマや映画に呼ばれるとき、以前はドランクドラゴンの塚地(武雅)さんのように、俳優さんにはない、特徴のある容姿や芝居を求められていました。ところが、最近はそうした“アクセント”としての存在というより、俳優としての演技力を求められる傾向が強まっています。児嶋さんも、役者としてその演技力が認められるようになってきたということでしょう。
年齢や見た目も、今のドラマ業界にちょうどいいです。若者のテレビ離れで、40代前後の視聴者をターゲットにするドラマが増えています。医者、弁護士、刑事を題材とする作品が多いなかで、大人の男性の役柄を違和感なく演じられる児嶋さんの需要は高いのです。俳優業の仕事が多い板尾創路さんのような路線ですよね。
今期の連続ドラマでは、児嶋さんは『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』(テレビ朝日系)で冤罪に苦しむシリアスな役を、『僕らは奇跡でできている』(フジテレビ系)で変わり者の研究者を演じています。正反対ともいえる役柄を、きっちりと演じていて、こちらが芸人だと意識することなく、自然に見ていられました。
■コンビの頭脳ではないからこそ、演技力が磨かれる。
そもそもは相方の渡部建さんにMCなどのピンの仕事が多くなり、結果的に児嶋さんも一人の仕事が増えていったのだと思います。そこで本人の資質に合った、俳優業という道が広がっていったのでしょう。
芸人の中でも役者に向いている人とそうでない人はいます。ネタを作っていない人の方が、役者として適性があるパターンが多いのです。ネタを書いている芸人さんは、自分が書いたネタをしゃべるので、人が書いたセリフは苦手だ、という人もいます。その相方は、演じることだけに集中できるので、演技力が磨かれていく。ダウンタウンも、ネタを作っている松本(人志)さんより、浜田(雅功)さんのほうがドラマ出演が多いですよね。アンジャッシュはお互いネタを作っているので、児嶋さんは相手の台本でコントを演じるなかで、演技力が鍛えられていったのでしょう。
芸人の起用は、制作側にとって思惑もあります。役者並みの演技力があるからというだけで、芸人を起用しているわけではないと思います。芸人はドラマ以外の番組にも出演しているので、ドラマを見ていない人にドラマを見てもらうきっかけになるし、“あの芸人がドラマに出ていた”というだけで話題にもなります。