こういう事例を垣間見ると、直情的な行動はやはり控えるべきだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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10月28日、中国の中央直轄市・重慶で起きたバスの転落事故は、中国のネット市民の注目するニュースであった。
13人が死亡し、2人が行方不明という事故は、乗客の女性が自分の降りる駅で降りられなかったことから運転手と口論になったことが原因だった。激高した女性が運転手に殴りかかったため運転手がハンドル操作を誤り、バスは長江へと転落した。幼い子供まで事故に巻き込まれたことから、中国社会に大きな衝撃が広がった。
まさしく「とんでもない事件」というべきだが、残念なことにいまの中国では同様の事故が頻発している。11月3付『人民日報』は、11月1日に江西省で発生した乗客と運転手のトラブルについて報じた記事のなかで、2018年以降だけでも、同様の事故はメディアが報じたケースだけみても42件も確認できるとしている。
たいていは料金や降りる駅で降りられなかったといったことから問題が起きるのだが、防犯カメラが発達した中国では、どのケースも必ず暴行の瞬間を映した動画がネットに公開され、加害者は社会の厳しい非難にさらされるというのに、問題は一向になくならないのだ。
だが、前述した記事によれば、運転手に暴行を加えるこの行為、一歩間違えば中国では死刑になる可能性があるというのだ。
そのキーワードが乗客による「ステアリングの強奪」である。
乗客とのトラブルの原因で多いのは、降りたい駅で降りられず、その場で「降ろせ」と客が要求。運転手が規則を理由にそれを拒むというものだ。その場合、えてして客は強引に車を止めようとしてハンドルや手動ブレーキに触れようとする。
運転中の運転手に暴行を加えることもそうだが、ハンドルをつかめば、その時点で「公共の安全に重大な危機を与えた」という罪が適用される可能性が生まれる。そうなれば少なくとも十年以上の刑となり、場合によって死刑にもなるというのだ。
もはや「つい、カッとなって人生が狂う」というレベルではない。