軽量で、加工性に優れ、水や薬品に強く、腐りにくい。プラスチックはさまざまな製品の原材料に使われ、今やわれわれの生活に欠かせない物となった。だが、増えすぎたプラスチックに対し、人類は大きな問題を抱えることになった。われわれの体の内部にプラスチックが入り込み、“人体汚染”の可能性が指摘され始めている。
プラスチックの生産が始まったのは1950年代から。60代以下の世代は生まれてからプラスチックに囲まれて生活してきたことになる。
プラスチック製造には、柔らかくするためや燃えにくくするためといった目的でいくつもの添加剤が使われている。マイクロプラスチックによる海洋汚染について研究する東京農工大学の高田秀重教授が言う。
「プラスチックそのものより、添加剤が問題です。添加剤の中の物質に、ペットボトルのふたなどに使われる『ノニルフェノール』があります。ノニルフェノールは、体内に入るとホルモンを分泌する器官に有害な影響を与える『環境ホルモン』の一種。アメリカの研究者の実験で、乳がん細胞の異常増殖を引き起こすことがわかっています。
この物質のほかにも多くの有害な添加剤が使用されています。最近ヨーロッパで行われた調査の結果、男性の精子数が減少傾向にあると明らかにされていて、その原因の1つがプラスチックの添加剤だと疑われています」
人体への害が疑われるのは添加剤だけではない。
石油を主原料とするプラスチックは、有害な化学物質を吸着しやすい性質がある。海水中には、現在は使用が禁止されている農薬や工業用油などの有害な化学物質が漂っていて、こうした有害な化学物質を吸着したマイクロプラスチックを、海の生物が摂取している。
「今のところ、マイクロプラスチックが直接的に人体に悪影響を与えたという報告はありません。しかし、海を漂うプラゴミの量は、20年後に10倍になると予想されています。このまま海に流れ込むマイクロプラスチックが増え続け、魚が摂取する量が10倍になれば、人体への影響も問題視されるはずです」(前出・高田教授)
さらに、日本の海は他の国に比べて、マイクロプラスチックの漂流量が多い。2015年の東京都環境局の発表によると、北太平洋の16倍、世界の海の27倍のマイクロプラスチックが存在しているという。
マイクロプラスチックを研究している愛媛大学の日向博文教授(沿岸海洋学)が語る。
「日本は、日本海側には対馬海流、太平洋側には黒潮が、どちらも南から北に向かって流れています。そのため、東南アジア方面から流れてきたマイクロプラスチックが海域に流れ込みやすく、一方で日本海では北からは流れ出にくい地形なので、マイクロプラスチックが海に溜まりやすい」
現在、全世界で年間約4億tものプラスチックが生産されている。そのうち約半分がコンビニの弁当箱やスーパーの袋などの、使い捨て容器・包装だ。日本はプラスチックの消費大国で、年間に約300億枚のレジ袋と、200億本以上のペットボトルを消費している。
「それだけではありません。洗顔料のスクラブや化粧品などに使用されるマイクロビーズも、そのまま下水道に流れていき、海に流入していきます。ポリウレタン製やメラミンフォームのスポンジやアクリルたわしも、使用するうちに削れて排水に流れていく。ポリエステルやナイロンなどの化繊の衣服を洗濯したときに発生する洗濯くずも、海のマイクロプラスチックの原因の1つです」(前出・高田教授)
海洋汚染というと、海から離れた場所に住む人には関係ないと思うかもしれないが、多くは意図的に海に捨てられたものではなく、路上にたまたま落ちたものや、日常生活で何気なく使うものが、海に流れ着いてしまったものだ。
マイクロプラスチックを減らすために、われわれにできることは何か。
「日本は他の国に比べても道路がきれいでゴミの分別も進んでおり、ゴミ処理能力も高いのでそちらを今以上に改善するのは大変。そもそもの“消費する量”を減らさなければいけません。例えばエコバッグを使用する、ペットボトル飲料を買わずマイボトルを使用するなど、一人ひとりがプラスチックの使用を減らしていく努力が大切だと思います」(前出・日向教授)
子や孫の世代に負の遺産を残してはならない。
※女性セブン2018年11月15日号