長年にわたり“過去のメディア”とされていたラジオが復権しつつある。そのきっかけとなったのが「ラジコ」。ネットを介してラジオを配信するラジコによって、いつでもどこでもラジオを聞けるようになったのだ。月額350円で全国のラジオをネットを介し、スマホやPCで視聴することが可能だ。
とはいえ、番組そのものが面白くなければ意味はないわけだが、ラジオにはラジオにしかない魅力があるのだ。
◆ホンネを聞ける
2016年末、惜しまれつつ解散した国民的アイドルグループ・SMAP。「メンバー自身の口から解散の真実を聞きたい」というファンの願いに応えたのは、「メディアの王様」とされるテレビではなく、ラジオだった。
解散発表後、木村拓哉(45才)は自身がパーソナリティーを務めていた番組『木村拓哉のWhats’ UP SMAP!』(TOKYO FM)内で「つらい思いをさせてごめんなさい」と重々しく謝罪した。さらに解散後には、稲垣吾郎(44才)が『大竹まこと ゴールデンラジオ』(文化放送)にゲスト出演し、「ファンのかたから『大丈夫ですか』と心配してもらいますが、本当に楽しくやらせてもらっています」とにこやかに報告した。
このように普段は表に出ない著名人の“B面”が見られるのもラジオの大きな魅力だろう。
特に深夜番組でその傾向が強く、『オールナイトニッポン』では、菅田将暉(25才)が迷いに迷った末に20万円の絵画を購入したことを、テレビではいつも自信なさげなオードリーの若林正恭(40才)が意外にも「オラオラぶり」を披露している。
また、映画以外にほとんど露出のない吉永小百合(73才)は、TBSラジオの『今晩は 吉永小百合です』を12年間続け、「実はカープ女子もどきなんです」などと私生活をラジオでだけ明らかにする。ライターで構成作家のやきそばかおるさんはこう話す。
「今はテレビや雑誌で少しでも不用意な発言をしたらバッシングされますが、ラジオではホンネを明かすことができます。とりわけ関西の放送は東京より“ホンネ度”が高い気がします」
ラジオにホンネが求められるようになったきっかけは、2011年の東日本大震災だという。
「原発事故が発生した当時、“新聞やテレビは本当のことを報道しない”との不満が高まりました。その中で、“ラジオは嘘をつかない”“ラジオだけはホンネを言える場であってほしい”という期待感が増した。震災後もこの傾向は続き、近年はTBSラジオの『荻上チキSession-22』に代表されるようなニュースの本質に斬り込む番組が増えました。テレビだと専門知識のないコメンテーターが当たり障りのない一言を添えて終わりですが、ラジオだと専門家がきっちりと解説するためわかりやすい」(やきそばかおるさん)
ラジオの特性を知り尽くすのが、フリーアナウンサーの吉田照美さん(67才)だ。文化放送のアナウンサーとして『セイ!ヤング』『吉田照美のやる気MANMAN!』などの人気番組を担当した。40年以上のキャリアを誇る吉田さんは、「ラジオの可能性」を話す。
「新聞やテレビなどの大メディアと比べて、ラジオは小さな世界です。今の世の中は変わったことを言うと叩かれるけど、ラジオは“たかがラジオだから放っておけばいい”とみなされがちで、個人の自由な意見を述べる余地が残っています」
小さな世界ゆえ、パーソナリティーの個性が出やすい。
「テレビは画面を通してビジュアルが伝わるから、身構えたり建前を言ったりするけど、姿が見えないラジオでは、格好つけようとしない。最近の放送でとても面白かったのは、誤ってセキセイインコの上に座ってペシャンコにしてしまったというリスナーが、インコの口を開けてプゥッと空気を吹きかけたら、マンガみたいに膨らんで見事に生き返ったという話。本当か嘘かわからないけど、面白いでしょう」(吉田さん)
ラジオの自由さをよく表すのが、「東大ニセ胴上げ事件」だ。学生服を着て受験生になりすました吉田さんが東京大学の合格発表に潜入し、「受かったー!」と叫んで胴上げされる様子を『セイ!ヤング』で放送したのだ。
「ぼくが胴上げされるシーンがテレビ各局の夜のニュースでも流れて、『受験をバカにしているのかっ!』と視聴者にひどく怒られました(苦笑)。今でいう炎上です。でもぼくは、くだらないことやバカバカしいやり取りをして、“人間って本当にバカだね”という気持ちをみんなで共有できるのがラジオのいいところだと思う。そういう幸せな瞬間がたまにやってくるんです」(吉田さん)
大上段に正義をふりかざすのではなく、ユルく、ささやかな喜びを共有すること。それがラジオの醍醐味であると吉田さんは信じている。
※女性セブン2018年11月22日号