【著者に訊け】細川展裕さん/『演劇プロデューサーという仕事 「第三舞台」「劇団☆新感線」はなぜヒットしたのか』/小学館/1512円
【本の内容】
著者が「姐さん」と呼ぶ天海祐希の持つ圧倒的なオーラを振り返り、芸能人についてこう綴る。〈持っている人、持っていない人。ある種残酷なことですが、役者というのはそんなものです。芸能の世界、才能に対する差別や区別は当たり前。さらにそこに縁が絡む。もっと厄介なことに運まで絡む。したがって、成功に至る方程式などあるはずがありません〉。折々の舞台の裏側や綺羅星の如き俳優たちとのつきあいなど、赤裸々にユーモラスに秘話を明かす。
「第三舞台」と「劇団☆新感線」。まったく個性の違う2つの劇団を企画やキャスティングの制作面で内側から支えてきた。演劇プロデューサーとしての35年は、「縁と運を紡ぐ仕事だった」と振り返る。
「映画やテレビと違って芝居というのは生身の人間がいれば何とかなるメディアです。やろうと思えば誰でもできるシンプルさが演劇の面白さで、だからこそ人と出会う縁や運といったことが、すごく大事になってくるんです」
音楽や文学は大好きだったが、意外にも演劇には興味がなかったのだそうだ。「第三舞台」に入ったのも幼なじみの鴻上尚史さんに頼まれたからで、初めて観た芝居が「新感線」だったところにも「縁と運」の不思議さを感じる。
「芝居が好きで好きでたまらない人間には厳しいかもしれませんね。自分が面白いと思うものを、相手はそうでもないと感じている。その気持ちを汲み取る余裕がないとプロデューサーは務まりません」
学生劇団として始まった「第三舞台」が、プロとして食べていくにはどうしたらいいか。観客動員数の目標を立て劇場を押さえるというそれまでにない方法を取れたのも、芝居だけやってきた人間にはない感覚があったからだろう。
「第三舞台」を離れた後は「新感線」の社長に。大阪から東京に拠点を移したばかりだったが、今や70万人興行を打つ、押しも押されぬ人気劇団だ。
本は自伝でもあり、子どものころ、紳士服店を経営していた祖父が知人の保証人になったために夜逃げ、残された家族の生活が激変したことなども書かれている。
「人生には何があるかわからないなあと思いました。だからこそ堅実な道を行く人もいるかもしれないけど、ぼくは、だったら面白い方がいいや、って考えますね」
おやじギャグを随所に炸裂させつつ、山あり谷ありの人生を軽快に描く。若いころは消費者金融と縁が切れず、いざという時に腹をくくるため還暦を迎える現在まで「バツなし独身」を通してきた。
「もし20才に戻って、今から何する?って聞かれたら、やっぱりこれ以外の選択肢はない気がするんです。結局、演劇との相性が良かったんでしょうね」
(取材・構成/佐久間文子)
※女性セブン2018年11月22日号