高齢者が多数となった日本でいま、彼らの婚活が大きな問題を生み出している。『言ってはいけない』(新潮新書)などで知られる作家の橘玲氏が、高齢者の婚活市場で生まれる難民問題について指摘する。
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「日本人はヨーロッパの難民問題を他人事みたいに思ってますけど、いままさにこの国で深刻な“難民問題”が起きているんですよ」
そう教えてくれた男性は六十八歳で、定年退職後に事情があって離婚し、余生を共に過ごす伴侶を婚活サイトで探していた。そんな彼が体験したのは、金持ちの男を求めて婚活市場をさまよう膨大な数の高齢女性がいるという現実だ。
彼女たちの多くはずっと専業主婦で、離婚や死別で一人暮らしになり、わずかな年金しか受給できないものの、資格も就業経験もないのでいまさら働いても満足な収入は得られない。そんな彼女たちにできる唯一のことは、男に尽くして養ってもらうことなのだという。
そのため、パートナー選びの基準は収入だけだ。年金や投資収入などで年収五百万円あれば、一人の男性に何十人もの女性が群がってくる。年収三百万円でもぎりぎり許容範囲だが、それを下回ると相手にされない。何人かの女性と「お見合い」をした男性がいうには、彼女たちにとっては見た目や性格はもちろん、愛情もどうでもよくて、「働かずにそこそこの暮らしができる」ことがすべてなのだ。
高齢者の婚活市場が残酷なのは、裕福な男性に対して女性の数が圧倒的に多いことだ。当然、ほとんどの女性は満足なパートナーを見つけられないまま老いていく。そうなると、乏しい年金以外に資産も仕事もなく、生活の糧をもたない彼女たちは生活保護で生きていくほかなくなる。こうして日本社会の底辺に吹きだまっていく姿を目の当たりにして、その男性は「難民」と評したのだ。
●たちばな・あきら/1959年生まれ。2002年国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『言ってはいけない』(新潮新書)、『朝日ぎらい』(朝日新書)、『80’s エイティーズ』(太田出版)など著書多数。
※SAPIO2018年11・12月号