高血圧になると、毎日、何錠も「降圧剤」を飲み続けなければならない。少しでも健康で長生きするためにそのコストと手間がかかるのは仕方ない。だが、それが原因でさらに重大な病気を招くかもしれない──そんな研究結果が発表された。ある降圧剤の副作用が「がんリスク」を上げるというのだ。
衝撃的な論文が10月24日付の英医学誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』(BMJ)に掲載された。〈降圧剤の一種である「アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬」の服用により、肺がんのリスクが増す〉という内容だ。
ジューイッシュ総合病院(カナダ)の研究グループは、1995年から2015年に降圧薬の服用を開始したイギリス人の高血圧患者99万2061人を追跡調査した結果をまとめた。
それによると、ACE阻害薬を服用した患者は、同じく降圧剤の一種であるARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)を服用した患者より、肺がん発症率(ハザード比)が14%高かった。さらに、服用期間が10年を超える患者に限定した調査では、発症率(ハザード比)は31%増になった──と報告している。高血圧治療が専門の岡田正彦・医師(新潟大学名誉教授)はこう語る。
「英国の準公的機関のデータを使った大規模調査であることは評価し、注目すべきです。ただしあくまで“ACE阻害薬の服用者に肺がん発症者が多かった”という疫学調査であって、“薬とがん発症の因果関係”には言及していない。
また、“肺がんの発症”がどの程度の進行具合だったかにも触れていないため、細胞の悪性度が低く“放置しても問題ないがん”が含まれている可能性もある。事実、論文執筆者もこの可能性を指摘しています。また、ACE阻害薬と肺がんの関連を否定する見解もあり、少なくとも現状では医学的に肺がんリスクが認められるレベルにはないと私は考えます」