【著者に訊け】東海林さだお氏/『ひとりメシの極意』/朝日新書/910円+税
笑いにも「人を笑う笑い」と「己を笑う笑い」の2種類あるが、漫画家で名エッセイスト・東海林さだお氏(81)のそれは、もはや己を飄々と笑いつくすダンディズムの境地すら思わせる。
最新エッセイ集『ひとりメシの極意』でも、〈ぼくは居酒屋でいじけるのを趣味にしている〉と書いたかと思えば、かの酒場の達人・太田和彦氏との巻頭対談では〈「みんなが俺をどう見てるか」問題〉を論じる。〈孤高〉に憧れつつ、そう格好よくもいかない小市民的な展開を、むしろ愉しむ風だ。
そもそも氏はおにぎりの〈一口分のゴハンに対する具の適量問題〉など、何でも問題化する大家であり、小さなことに悶々とできるのも、ひとりメシならでは。それにしても、これほど楽しく、食欲をそそられる本書が、よくあるグルメ本と一線を画すのは、なぜ?
「情報性がないですからね。特に今は蘊蓄なんてスマホですぐ検索できちゃうし、取るに足らないことしかここには書いてない(笑い)」
週日はここ西荻窪の仕事場に寝泊まりし、週末だけ自宅に帰る生活を、50年来続ける東海林氏。3年前に肝臓癌を患い、酒こそ控えているものの、日々の食事は大抵、ひとりメシだ。
「僕ら自由業は会社帰りに軽く一杯ってわけにいかないし、4人集めるにも一々大事になっちゃうんです。太田さんは一人飲みダイジョブ派だからいいけど、普通はみんな『さては友達がいないな』と思われやしないか、オドオドしてますよ。誰も自分のことなんか見てないのにね(笑い)」