「世に盗人の種は尽きまじ」は、浄瑠璃や歌舞伎の題材としても知られる大盗賊・石川五右衛門の辞世の句だが、21世紀のいま「この世に詐欺の種は尽きない」と、次々と商材を変えながら詐欺を続ける人たちがいる。2000年代に激増し、いったんは減少したリフォーム詐欺被害がいま、再び目立ち始めている背景について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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久々に、それこそ十何年ぶりに「リフォーム詐欺」という言葉を新聞で見た。しかし、驚きなどの感情はほとんど芽生えない。もしやと思い取材をすると、そこにはやはり「原点回帰」の傾向が見られた──。
嘘を言って不要なリフォーム工事契約を交わしたとして、神奈川県横浜市のリフォーム会社経営者の男らが特定商取引法違反で逮捕された。愛知県内のマンションに住む女性らに「階下に何かがあってからではお金がかかる」などと虚偽の説明をし、代金約390万円をだまし取ったとされている。
この「リフォーム詐欺」は、2000年代前半に隆盛を極めた、ひと昔前の「詐欺」と内容がそっくりだ。高齢者宅を狙い撃ちし「床下に湿気が溜まり家がダメになる」などと嘘を言って、必要のない高額な床下換気扇などを売りつけたり、市価以上の高額契約を取り付けて粗悪品を用い、手抜き工事しかしない外壁業者が勃興していたのだ。
これら詐欺の手口について、メディアが実情を報じたことで、業者は相次いで検挙され、いつの間にか「リフォーム詐欺業者」は消えたかのようにも見えた。
しばらく後に、いわゆるオレオレ詐欺(特殊詐欺)事件について取材を続けていた筆者は、「元リフォーム詐欺業者」のうち少なくない人数が、場所を変えて詐欺に加わっていると気が付いた。インフルエンサービジネスやねずみ講まがいビジネス、流行の仮想通貨投資ビジネスに関するトラブルを取材すると、リフォーム詐欺やオレオレ詐欺の取材をしていた時と同じメンツが、まるで「金太郎アメ」を切るかのごとく出てくる。不謹慎ではあるが、笑えるほど同じ顔ぶれに出くわした。当時取材に答えてくれた男性に、改めて電話で話を聞いた。
「リフォームの前は車金融や090金融ですよ。それが潰されてリフォームになったけど、老人狙ったやり口を使ったヤツってのは、それが最初なんじゃないかな?リフォームがつぶれてオレオレになり、オレオレがヤバくなって投資詐欺とか。金融も最近少しずつ出てきてるけど、昔より(規制や取り締まりが)キツイでしょ?だから不動産販売とか、スルガの話もまるっきりそれ。リフォーム詐欺もその一環だよね。巡り巡って、またリフォームってこと」
オレオレ詐欺の取材を通じて知り合った男性は、かつて090金融など、無許可の「闇金業」で財を成した人物であった。その後、リフォーム詐欺を行う「事業」でさらに莫大な財を築いたあと、首都圏で飲食店やアパレル店を運営する「経営者」になった。「いいことをするためには悪いことも必要」と、自分勝手なロジックを展開していた彼も今や「実業家」。慈善事業にも参入して、自身で「身のロンダリングができた」とうそぶくほどだ。そんな彼が指摘するのは、詐欺は堂々巡りであり、いつの時代もやり方や商材は変わらない、ということだ。
自家用車で乗り付けた客に無許可の業者が車を担保に金を貸す「車金融」、連絡先がいわゆる「とばし携帯」で発信者や事業者がすぐにはわからない090金融などの「闇金融」業者の摘発が相次いだあと、男性はすぐに身を引き、悪質リフォーム業者に転身した。