JR東海の葛西敬之・名誉会長(78)といえば、公益事業の経営トップには珍しく硬派な保守思想を歯に衣着せず発言する「ものいう財界人」でもある。安倍晋三・首相にとっては保守政治の「指南役」的存在とされるが、靖国神社の総代を務めていることは一般にはあまり知られていない。
その靖国神社は、小堀邦夫宮司が6月に行なわれた定例会議の席上、「今上天皇は靖国神社を潰そうとしているんだよ」などと発言していたことを本誌・週刊ポスト(10月1日発売号)が報じ、大きく揺れている。事態収拾に総代の葛西氏が動いたという。
「事情を把握するため葛西氏が靖国に出向いたんです。宮司の人事は総代会で決められるため、辞任を避けられなくなった小堀宮司は、宮内庁に謝罪したうえでケジメをつけました」(靖国神社関係者)
それにしてもなぜ、JR東海という公益企業の経営者が靖国神社総代なのか。顧客の幅が広いビジネスであれば特定の宗教や政治思想の“カラー”を打ち出すことはむしろマイナスに働くような印象さえある。
葛西氏の人脈にその秘密がある。日本最大の保守系団体「日本会議」のメンバーが中心になって発足させた憲法改正を推進する国民運動組織が「美しい日本の憲法をつくる国民の会」だ。葛西氏はその代表発起人に名を連ねている。靖国神社だけにとどまらず、日本会議や神社本庁系の神道政治連盟など安倍首相の政治基盤である保守系団体に広く“ご意見番”として発言力をもっている。
葛西氏の影響力はNHK会長人事にも及んでいる。いまや財界人の“天上がりポスト”と化しているNHK会長だが、たとえ首相官邸が推しても、「葛西氏の眼鏡にかなわなければなれない」と見られている。ノンフィクション作家の森功氏が語る。