日本人なら誰もが心を震わせる物語、忠犬ハチ公はしかし、中国でも有名だった。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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中国に忠犬ハチ公──。こんな見出しの動画が中国のニュースサイトを騒がせたのは、11月14日のことだ。お堅いことで知られる『人民日報』のウェブサイトでさえ、同じ動画を見ることができる。
さて、この話、要するに主人(女性)を失った犬が、同じ場所に座り込んだまま動こうとしないというもので、まさにタイトルは〈現実版 忠犬ハチ公〉なのである。
おそらく夜間に撮られたであろう動画の中で、一匹の犬が道路わきに座り込んだまま、ただ通り過ぎる車を眺めている。内モンゴル自治区の省都、呼和浩特での出来事だ。
白と黒の雑種と追われる中型犬だが、歩道ではなく道路の白線を超えた場所で座っているため、すぐ目の前を車が通り過ぎる。ちょっと気がかりな状況だ。
動画が配信されたときにはすでに80日間が過ぎていて、心配した人々が届けたであろう食べ物も近くに置かれてある。
中国の「忠犬」を表現するのにわざわざ日本で有名な「ハチ公」(中国では、「忠犬八公」)を見出しに使うとは、ハチ公も有名になったものである。中国における日本の情報の浸透ぶりをうかがわせるエピソードといえるのだろう。
それにしても長い歴史を誇る中国にあって、犬の忠儀を象徴する物語はほかになかったのだろうか。いや、昔の中国では犬を食べていたから、なんてありきたりの話はおいておいても、城内で買われていた愛玩犬としてチンの名前はあまりに有名だ。
そういう視点で考えたとき、ペットとしての犬の存在が身近になったのは、やはり90年代以降。まだまだ30年弱の歴史しかないことと関連しているのかもしれない。