江戸時代から脈々と受け継がれてきた伝統芸能の「歌舞伎」を巡って、いち民間企業がその“独占権”を主張し物議を呼んでいる。果たして歌舞伎は誰のものなのか──。
肌寒さが増した11月中旬の週末、東京・銀座の歌舞伎座の前には、開場前から溢れんばかりの人だかりができていた。
この日の演目は『隅田川続佛 法界坊』。僧役の市川猿之助が舞台を練り歩くたびに、会場から歓声が沸き上がった。
日本が誇る伝統芸能として世界に知られる歌舞伎。歌舞伎座だけで年間観客動員は100万人を超え、その市場規模は150億円ともいわれる。その興行を一手に握るのが松竹株式会社である。歌舞伎座だけでなく、新橋演舞場、京都・南座での公演も松竹が担う。その松竹の“影響力”の強さについて、ある広告代理店の幹部が語る。
「これまでもいくつか歌舞伎イベントの宣伝を担当していたんですが、今年の夏、そのうちのひとつが突然開催中止になってしまったんです。松竹から“うちの許可を取っていませんよね”と抗議の申し立てがあったということです。
驚いて聞くと、松竹は歌舞伎に関する商標を多数出願しており、興行や演芸の分野でも『歌舞伎』という名称の使用を管理し始めたと説明されました。松竹と無関係の団体は、『歌舞伎』と銘打ったイベントが打てなくなってしまったようなのです」