あるテレビ局を見ていると、「この人、別の局では見ないけど、この局ではよく見るな」という人がいる。芸能人ではなく、いわゆる「識者」や「文化人」と呼ばれるタイプにそれが多いのだが、こうなる理由は番組のディレクターをはじめとしたスタッフおよび出演者とその人との相性がよいからであることが多い。
「○○の分野は××さんに頼もう。あの人ならば急なお願いにも対応してもらえる」といった使われ方をされるが、この識者が別の局に出るようになるとどう考えるか。在京民放のディレクターはこう語る。
「正直悔しい気持ちはあります。特にそれまでほとんどテレビに出ていなかった人が頻繁に他局に出ているのを見ていると、『我々が見出した人なのに……』といった気持ちには正直なりますし、なんとなくその方へのオファーも出しづらくなります。あちらの方がギャラもいいでしょうし……」
こうした例とは異なるものの、11月30日にNEWSポストセブンで配信された「貴乃花の日テレ『スッキリ』離婚独白、テレ朝は激怒」という記事に対し、ネット上では異論も目立った。
記事には、元々2017年末の日馬富士による貴ノ岩暴行騒動をめぐり、貴乃花親方の独占インタビューをテレビ朝日が放送したことが記されている。放送にあたっては、貴乃花への徹底した配慮をし、同氏の要望をすべて飲むなどの努力をした。しかもテレ朝は相撲協会から出入り禁止をくらったというのだ。それなのに、貴乃花の“引退”一報は11月26日放送の日本テレビの『news zero』で、翌27日の朝の情報番組『スッキリ』には貴乃花が生出演した。
ここがテレ朝の怒りのポイントだったと報じられたのだが、ネットでは「スクープなんて競争でしょう」「言い方が良くないけど早い物勝ちなんじゃない?」「社員じゃなければどこに出ようが自由」「テレ朝が激怒する意味がわからん」といった声が出た。
こうした反応があれど、テレ朝が怒るのも無理はないと考えるのは芸能事情に詳しいライターの渡辺和代氏だ。同氏は冒頭の「他局に自分の発掘した人物が出る」ことに関連し、こう述べる。
「テレ朝だって自分たちが出し抜いたことだってあるでしょうし、他局を怒らせたこともあるでしょう。お互いさま、といった暗黙の了解はありつつも、『次の重大発表もウチでお願いします』という考えはあったかもしれません。担当者からすれば、『日テレのスタッフの方が自分らよりも関係が深かったのか…』といった落胆もあったかもしれません」
マスコミ業界の場合、不義理を働いた場合に「出禁」(出入り禁止)という言葉は頻繁に使われるが、果たして貴乃花はテレ朝を出禁になるか。渡辺氏は「一般論として、一介の文化人ではなく、あれだけの大物との縁を切りたいとは考えないはず。今回のは『貸し1回』みたいな形で次にもっと大きなネタをもらえるよう動くのが、テレビ制作者としての意地でしょうね。となると今度は日テレが『激怒』なんて記事が出てしまうかもしれませんが(笑い)。それでテレビが活性化すればいいのではないでしょうか」と語る。
「激怒の連鎖」があるとテレビ番組の内容がより充実するということか。