音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、いま最もチケットがとりづらい噺家のひとり、春風亭一之輔の5日連続独演会について、お届けする。
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10月23日から27日まで5日連続で開催された春風亭一之輔独演会「落語一之輔五夜」全公演を観た。2014年の「一夜」から毎年「二夜」「三夜」「四夜」と一夜ずつ増やしてきたこの公演、毎夜の大ネタ初演が目玉で、今回は『ねずみ』『付き馬』『帯久』『意地くらべ』『中村仲蔵』の5席をネタ下ろしした(一之輔は毎夜その他に2席ずつ演じている)。
第一夜は左甚五郎の名人譚『ねずみ』。元は向かいの大きな旅籠「虎屋」の主人だった卯兵衛が、事故に巻き込まれて腰が立たなくなり、後妻と番頭に店を乗っ取られて……という「ねずみ屋」主人の身の上話は通常本人の口から語られるが、一之輔は卯兵衛の友人が甚五郎に語って聞かせる。これは三遊亭兼好の演出で、自分の境遇を自分で語る押しつけがましさを解消する見事な発想だ。一之輔は「『ねずみ』をやるならあれしかない」と考え、兼好に教えてもらったのだという。
第二夜の『付き馬』は、男を登楼させた若い衆ではなく別の若い衆が付いて行く。これは大師匠である五代目春風亭柳朝の型で、一之輔は全編にわたって柳朝演出を踏襲している。大門を出て若い衆を連れ回す男の様子は「調子がいい」というより有無を言わせぬ強引さが特徴的。一之輔らしい豪快な『付き馬』だ。