人工知能が全国の65才以上、のべ41万人もの生活習慣や行動に関する調査データを分析したところ、健康長寿を延ばすキーワードが、「本や雑誌を読む」だったというニュースが話題になった。
事実、健康寿命がいちばん長い山梨県は図書館の数が全国で1位。また本を読む人が読まない人より寿命が2年長いというアメリカの研究も。読書には秘められた力がありそうだ。特に高齢者にどんな効用があるのか。日本読書療法学会会長の寺田真理子さんにおすすめ本とともに聞いた。
◆自分とは違う考え方が刺激と元気をくれる
「読書は、時空を超えて物語の世界へ行くことができ、閉ざされた家の中にいてもたくさんの新しい刺激を得ることができます。そして本の中に自分と波長の合う人を見つけると、新しい友を得たような心強い気持ちにもなります」
と、寺田さん。高齢で思うように体が動かなくても、心を活動的にしてくれるのが本ならではの魅力だという。
「高齢で行動範囲が狭まったり刺激が減ったりすると、考え方が偏り、ネガティブになりがちです。そんなときも本を読むと、その中に自分と同年代や同じ境遇でも活躍している人、また、全然違う価値観で元気にしている人などに出合い、凝り固まった考えが解き放たれたりします。そんな彼らをお手本に、自分も元気になる力が湧くのです」(寺田さん・以下同)
まるで生身の人とのコミュニケーションのような力だ。
「誰もが少なからず老いの悩みや不安を抱えると思いますが、それをいつでも人と気軽に語り合えるかというと、意外に難しいこともあります。
本の中に似たような悩みが書いてあるのを読むと、固定観念から少し離れて、客観的に自分の不安と向き合えたりもします。実際の人とかかわるより、やさしく穏やかに寄り添ってくれるのも本の魅力。
もちろん同じ本を読んでも、人によって受け止め方は違いますが、何より、自分の中にない考え方の存在を知ることが、大きな力になります」
◆適度な距離感と情報量が心の不調を癒す
寺田さん自身、読書によりうつ病から回復した経験を持ち、その力を実感した1人。
「うつ病は認知症に似ていて、脳の処理能力が落ち、たくさんの活字やテレビ、パソコン画面を見ると気持ちが悪くなりました。情報量が多すぎたのです。それでも自然と手を伸ばした文字の少ない画集や美しい写真集に癒され、回復に従い少しずつ文字の多い本が読めるようになりました」
読書で癒されることは古代から知られ、20世紀初めにアメリカでの読書療法の研究が一般にも注目されるようになった。読書療法の形はいろいろ。1人で読んだり、カウンセラーと1対1で行ったり、読書会での集団療法もある。
「人は心の中では孤独。でも本はほどよい距離感で寄り添ってくれるのです。その情報量も自分で計って選べ、自分のペースでかかわれます。そこが高齢者や認知症の人にも心地よく、自然と癒してくれるのだと思います」
※女性セブン2018年12月20日号