がんにかかり余命宣告を受けるという状況には深刻なイメージが伴うが、「自らの死期が明確になる」ことは、残された時間をより有意義に生きることにつながる。神経内科医の米山公啓医師が語る。
「『脳卒中』や『心筋梗塞』などを発症すると、突然死にいたるケースも少なくない。そうなれば、亡くなるまでの余生をどう充実させるか、やり残したことはないか、といったことを考える時間が与えられません。
がんの場合、合併症などを起こしていない場合は末期でも半年から3か月ほどの猶予があるため、体が動くようなら旅行など、やり残したと思える行動にでることもできますし、もし動けない場合でも、子供や孫に対して財産整理を行なう時間はあります」
◆家族との時間を初めて大切にした
東京放射線クリニック院長の柏原賢一医師は、がん患者の“心の変化”に気づいたケースを語る。
「患者さんの中には、ご自分が亡くなった後の家族のための準備期間が持てることをプラスに捉え、前向きに準備される方もいます。
骨に転移した痛みを放射線治療で緩和しながら、体調がよくなったところで、家族揃って初めての海外旅行に行かれた方がいました。仕事を忙しくされていた方だったので、がんであることを知らなかったら、そうした時間を持たなかった可能性もあると思いました」
もちろん、がんの発症を望む人はいない。だが、大半の人はいずれ死に向かう病に罹る。
「がんはいい病気」──そう語る医師も多い。がんを知り、患者と向き合ってきた医師たちの言葉は、「苦しい病」「死に至る病」という不安を抱いてきた人々に新しい考え方をもたらしてくれる。
※週刊ポスト2018年12月21日号