好きな音楽は、楽しい気分を盛り上げてくれたり、悲しい気分を慰めてくれたり、いつも心に寄り添ってくれる。
そんな音楽の力を科学的に研究し、心身の健康に生かすのが音楽療法。今は精神疾患などの病気治療や予防、ストレスケアなどに活用され、高齢者施設でも行われている。
長年、音楽療法の研究と実践に携わり、介護施設などで高齢者に生き生きとした元気を届けている日本音楽心理学音楽療法懇話会会長の貫行子(ぬき・みちこ)さんに、音楽療法のメカニズムや、高齢の親たちの生活に生かすコツを聞いた。
「音楽が聞こえてくると、そのリズムに合わせて自然に体が動きます。じっとしている方が難しいでしょう? これはリズムを脳のいちばん原始的な領域、食欲や性欲などの本能を司る脳幹と呼ばれる部分で感じているから」と、貫さん。確かに音楽に集中して聞き入ると、自然にリズムを探し小さく首を振ったり、体を揺らしたりしている。
同調すると心地よく、軽やかな音楽なら愉快な気分になり、心が上向きになるのがわかる。
「私たちは一定のリズムを刻むものに囲まれています。呼吸や心拍などの体内のリズム、一日24時間の時間のリズム、太陽と月など天体のリズム。私たちの命はリズムの継続。世界はリズムで成り立っているのです。そのためリズムにのると心地よく、逆らって乱れると体調を崩したりもします」(貫さん・以下同)
健康の基本は規則正しい生活…と、よく言われる言葉の真意はここにあるのかもしれない。
「リズムと同様に、メロディー(旋律)は情動や記憶、自律神経なども司る大脳辺縁系と呼ばれる部分で、ハーモニーは対話などの高次機能を司る大脳新皮質で感じます。
昔、聴いたり歌ったりして大好きになった音楽は長期記憶として深く刻まれ、たとえば重度の認知症になり、対話としての言葉を失った人でも、子供の頃から親しんだ『仰げば尊し』は、リズムを刻みながらメロディーとともに覚えた歌詞をきちんと発声し、歌うことができます」
音楽は心にも体にも大きな影響を与えるという。