京浜急行横須賀中央駅は文字通り横須賀の中心に位置している。その東口前から広がる繁華街を楽しそうに流れて行く人ごみに混じって歩いて行くと、ものの3分もしないうちに『酒のデパート ヒトモト』の前に出る。
「創業が明治22年(1889年)ですから、酒屋として130年になりますね。角打ちを始めたのは、このビルに建て直したのと同時なので、ちょうど50年でしょうか。そんな歴史もあって、うちはかなり長いお付き合いのお客さんが多いんですよ」と、7代目社長の息子であり取締役の仲山慶さん(37歳)。
「ちなみに、屋号のヒトモトは一本と書くんです。父が婿入りしたけれど、姓は仲山を名乗っているというわけなんです」
酒販部分と角打ちスペースが分離されていて入口も別というのは、酒の購入客にも角打ち客にも気を遣わせないようにと配慮によるもので、平成の角打ちはこの形式を採用する店が多くなっている。
左側の角打ち入口を覗くと、1本のカウンターが奥へと延びているだけのうなぎの寝床がある。だが、「15人以上楽に並べるし、お品書きが貼られた背中側の壁までも余裕があるんで、狭さはまったく感じない。けっこう太いうなぎが寝られるよ。気持ちよく飲んで話せるね」と、長い付き合いの常連客に歓迎されている。
そこに集ったのは、さすがと言おうか、なるほどと言おうか、いかにも“横須賀的多士済々”といった顔ぶれだった。
入口近くには、70代と60代の元校長先生のふたり連れ。「角打ち部門を担当しているお母さんたちの面倒見の良さがうれしいんです。先生、今日はちょっと飲み過ぎてますよとか、珍しいお酒が入ったので召し上がってみてくださいなどと、いつも気にかけてくれるんですよ。素敵でしょ。そんな理由で、教諭時代から私は50年、彼は30年通っています」。
カウンターの最奥でも、微醺(びくん)を帯びた、通い歴50年超という古豪が揺れていた。
「ゼロ戦の製造技師だった親父が、老後に贔屓にしていた店でさ。話は聞いていたんで、自分もどぶ板通り辺りでやんちゃやってた時代に覗いたのよ。店側は迷惑だったろうけど、店のおばちゃんたちの対応が粋で、すっかり気に入っちゃって。出禁なんてこともあったようななかったような(笑い)。で、いつの間にか50年経っちゃった」(70代、工作機械製造)
「ワオ、50年。そいつはグレート。ぼくはUSAのペンシルベニアから来て、ここは8年だね。でも安く飲めるのがいいし、友達もいっぱいできたよ」(40代、基地勤務)